在るべきところへ

リエ馨

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◆在るべきところへ◇11話◇森の国 ②

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◆在るべきところへ◇11話◇森の国 ②


「お帰り、遅かったわね」

 階段を下りてくる音が聞こえ、扉を開けて女性が入って来た。ゆったりと肩下まで伸ばした緩い金髪が、歩く度に揺れる。

「レイ、二階の奥に祭壇を作ってあるから、説得を手伝ってちょうだい。ああインティス、久し振りね。覚えてる?」
「え、えっと……」

 レイの後、フードを脱いですぐに砂漠の国の言葉で話しかけられ、記憶にない相手にどう返していいものかインティスは戸惑った。だが、察していたのか、「なんてね、冗談よ」の一言で片付けられてしまった。

「君も何人か精霊の力の強い人間を保護してるんだって?」
「そうよ、四人ね。同じ二階の別の部屋に匿ってあるわ。生活はできるから放っといても問題ないんだけど」

 カーリアンは兄の質問に答えながら、戸棚の奥から重そうな布袋を出して来た。

「フェレ、悪いんだけど、これで城のあんたの隣の部屋を借りるわ」
「は? 本気で言ってる?」

 布袋からはじゃらじゃらと金属の音がした。貨幣だろうか。
 二人はもうここの国の言葉で話しているので、インティスには何を言っているのかはわからない。
 ただ、フェレナードは怪訝な顔をしていた。

「本気よ、インティスの分。これからレイと二人がかりで精霊たちと交渉するわ。連れて来てって言った女の子がいないってことは、急がなきゃまずいでしょ? 食事とか寝る場所とか、多分気にかけられないと思うから」
「……わかったよ。今日中に手配して、明日また迎えに来る」
「それでいいわ。頼んだからね」

 袋を受け取ったフェレナードが足早に立ち去ると、ばたんと閉められた扉を見たレイが困ったように笑った。

「そういうお金の使い方は相変わらずだね」
「あら、こういう時のために使うものよ」

 カーリアンが二階に消えた後、レイがこれからのことを説明してくれたので、先行きが不透明というインティスの不安はなくなった。
 だが、明日から城で寝泊まりすると聞かされて、それはそれで不安になる。
 簡単な夕食の後に案内された寝室は適度な狭苦しさでほっとしたものの、外の景色や空気が違うのは当分慣れないなと思った。


    ◇
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