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◆在るべきところへ◇11話◇森の国 ③
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◆在るべきところへ◇11話◇森の国 ③
翌日の昼前にインティスを迎えに来たフェレナードは、昨日までの服装と雰囲気が違っていた。
これまでの外套の下は簡素な、旅人が好んで着るような動きやすそうな服だったのに、今日はもう外套はなく、服の襟や袖など、ところどころに細かい刺繍が見えて、高貴な身分の人間が着るようなものに変わっていた。
そういう服装の連中はレイに言い寄って来ることが多く、あまりいい印象を受けたことがなかったので、彼のおはようという砂漠の国の挨拶に返すのを躊躇ってしまったほどだ。
「言ってなかったっけ。これから紹介するけど、俺はこの国の王子の教育係をしてるんだ」
「教育係?」
それまで彼の職業を想像したことはなかったが、言われてみると納得はできた。何度か聞いた嫌味なく諭すような言い方がそうさせたのかもしれない。
今日も城下町の一番大きな道を歩いたが、人々の視線は皆、隣のフェレナードに集まっていた。
砂漠の村に来た時から薄々感じてはいたが、彼の長い銀の髪は太陽の下できらきらと光って人目を引く。
もしかしたら、昨日も人々の視線の先は彼だったのかもしれない。そう考えると、今日はフードを被らなくても平気に思えた。
城はとても大きな建物だった。石でできた城壁は蔦に覆われていて、昔からこの場所にあったことがわかる。
内部も想像する以上に広かったので、迷いなく歩く彼が信じられなかった。
階段を上ったり、長い廊下をいくつも歩いて、それからまた石造りの螺旋階段を登って、ようやく一つの部屋の大きな扉の前に行き着いた。
フェレナードがその扉の取っ手を握って引くと、波紋のような光が扉全体に広がった。これは鍵を開けたんだ。昨日レイが教えてくれたことだ。
言葉が違うのでインティスにはよくわからないが、彼は誰かに声をかけながら部屋の中に入っていった。
扉が閉まったら鍵がかかってしまうと思い、慌てて中に入る。
そこは森の中にいるような深い緑を基調にした調度の部屋で、砂漠の村を基準にすれば家一件分ほどの広さがあった。
少しして、奥から小さな子供がフェレナードめがけて嬉しそうに走ってきた。
子供は勢い任せにその足に抱きつくと、彼は母親が子供にそうするように抱き上げる。
同じくらいの目線になって二人で会話しているが、やはりインティスには何を話しているのかはわからなかった。
不意にフェレナードと目が合い、彼が王子を床に下ろしてインティスを呼び寄せた。
「インティス、こちらがこの国の王子、アディレス様だよ」
その後、恐らくこの国の言葉でインティスを王子に紹介したのだろう。小さな王子が張り切って大きな声で挨拶してきた。が、やはり意味はわからない。フェレナードがさりげなく砂漠の国の言葉を添えた。
「今のははじめましてという挨拶なんだ。君も、自分の国の言葉でいいよ」
「え、えっと……はじめまして……」
フェレナードがそれを森の国の言葉に訳して王子に伝えている。
すると、王子がインティスの方を向いてにこっと笑った。どうやら通じたみたいだ。金の巻き毛が太陽みたいだなと、インティスは思った。
◇
翌日の昼前にインティスを迎えに来たフェレナードは、昨日までの服装と雰囲気が違っていた。
これまでの外套の下は簡素な、旅人が好んで着るような動きやすそうな服だったのに、今日はもう外套はなく、服の襟や袖など、ところどころに細かい刺繍が見えて、高貴な身分の人間が着るようなものに変わっていた。
そういう服装の連中はレイに言い寄って来ることが多く、あまりいい印象を受けたことがなかったので、彼のおはようという砂漠の国の挨拶に返すのを躊躇ってしまったほどだ。
「言ってなかったっけ。これから紹介するけど、俺はこの国の王子の教育係をしてるんだ」
「教育係?」
それまで彼の職業を想像したことはなかったが、言われてみると納得はできた。何度か聞いた嫌味なく諭すような言い方がそうさせたのかもしれない。
今日も城下町の一番大きな道を歩いたが、人々の視線は皆、隣のフェレナードに集まっていた。
砂漠の村に来た時から薄々感じてはいたが、彼の長い銀の髪は太陽の下できらきらと光って人目を引く。
もしかしたら、昨日も人々の視線の先は彼だったのかもしれない。そう考えると、今日はフードを被らなくても平気に思えた。
城はとても大きな建物だった。石でできた城壁は蔦に覆われていて、昔からこの場所にあったことがわかる。
内部も想像する以上に広かったので、迷いなく歩く彼が信じられなかった。
階段を上ったり、長い廊下をいくつも歩いて、それからまた石造りの螺旋階段を登って、ようやく一つの部屋の大きな扉の前に行き着いた。
フェレナードがその扉の取っ手を握って引くと、波紋のような光が扉全体に広がった。これは鍵を開けたんだ。昨日レイが教えてくれたことだ。
言葉が違うのでインティスにはよくわからないが、彼は誰かに声をかけながら部屋の中に入っていった。
扉が閉まったら鍵がかかってしまうと思い、慌てて中に入る。
そこは森の中にいるような深い緑を基調にした調度の部屋で、砂漠の村を基準にすれば家一件分ほどの広さがあった。
少しして、奥から小さな子供がフェレナードめがけて嬉しそうに走ってきた。
子供は勢い任せにその足に抱きつくと、彼は母親が子供にそうするように抱き上げる。
同じくらいの目線になって二人で会話しているが、やはりインティスには何を話しているのかはわからなかった。
不意にフェレナードと目が合い、彼が王子を床に下ろしてインティスを呼び寄せた。
「インティス、こちらがこの国の王子、アディレス様だよ」
その後、恐らくこの国の言葉でインティスを王子に紹介したのだろう。小さな王子が張り切って大きな声で挨拶してきた。が、やはり意味はわからない。フェレナードがさりげなく砂漠の国の言葉を添えた。
「今のははじめましてという挨拶なんだ。君も、自分の国の言葉でいいよ」
「え、えっと……はじめまして……」
フェレナードがそれを森の国の言葉に訳して王子に伝えている。
すると、王子がインティスの方を向いてにこっと笑った。どうやら通じたみたいだ。金の巻き毛が太陽みたいだなと、インティスは思った。
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