在るべきところへ

リエ馨

文字の大きさ
上 下
36 / 77

◆在るべきところへ◇11話◇森の国 ④

しおりを挟む
◆在るべきところへ◇11話◇森の国 ④


 その後もう一人、背の高い、鎧を着た男にも紹介された。

 濃い色の髪と口髭が印象的な彼はダグラスと言って、王子を守る近衛師団の長らしい。確かに、握手してみるとその力にインティスは驚いた。多分この人は強い。
 彼は始めからフェレナードに話しかけていて、完全に通訳ありきで話をしていた。

 しばらく二人で話してから、フェレナードが内容を要約してインティスに伝えてくる。

「ダグラスが、君の剣の腕を知りたいと言ってるんだ。賢者様やカーリアンの交渉が終わるまで、ここで体を動かしたらどうかって。どうだい?」
「……わかった」

 インティスがそれだけ返事をすると、彼は頷いてまたダグラスと話し始めた。
 言葉はわからないが、ダグラスとフェレナードはお互い平等な立場で会話しているように見えた。冗談を言って笑い合うような、そんな関係だ。

 二人を眺めながら、インティスにはそういう存在はアテネしかいなかったことをぼんやり思い出していた。
 水の遺跡に歳の近い子供同士で遊びに行ったのは昔の話で、インティスが剣を持って砂ミミズや砂竜を退治するようになってからは、彼女以外の態度がよそよそしくなったのを覚えている。あんなやつをたった一人で相手にするなんておかしいって、言っていたようないなかったような。

「インティス、聞いてる?」

 いつの間にかフェレナードに話しかけられていた。

「な、何」
「無理はしなくていいけど、時間を持て余さない程度に、剣の稽古とこの国の言葉の多少の勉強くらいはどうかな」
「あー……別に構わないけど……」

 答えたものの、こういう時にどうするか聞かれても、本人に決定権はないものだ。
 フェレナードが王子についている間はインティスはダグラスと剣の稽古、王子が他の分野を学ぶ際にフェレナードが外れた時は、インティスにこの国の言葉を教えることになった。

 幼なじみの行方がわからない状況の中、正直に言うと何かをしたいという気持ちにはなれなかったが、彼らは彼らで自分の気を紛らわせようとしているのかもしれない。それに、一日中何もしないわけにもいかないだろう。
 事態が進展しない限り受け入れるしかないので、早く何もかも終わればいいのにと願うばかりだった。

 知らない言葉の国の空の下で。
しおりを挟む

処理中です...