在るべきところへ

リエ馨

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◆在るべきところへ◇15話◇蘇りの木 ③

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◆在るべきところへ◇15話◇蘇りの木 ③


「ちょっと……ずいぶん悪趣味ね」
「……確かに」
「レイ、あそこ」

 誰よりも早くアテネを見つけたインティスが指さした。彼女もまた、集められて眠っている人間の中にいた。

「……これは時間の問題だわ。フェレ、こっちで気を逸らすから、インティスと反対側へ回って」
「わかった」
「行きなさい」

 フェレナードはカーリアンに、インティスはレイに指示され、音を立てないようにしながら二人から離れた。
 十分に自分たちから距離を取ったのを確認すると、カーリアンが立ち上がる。

「ミゼ、いい加減やめなさい!」
「……思ったより早かったわね」
「何百年探したと思ってるの。後ろめたくて連絡もできなかったくせに」

 辛辣な挨拶にミゼリットは睨む視線をきつくしたが、すぐに他方の気配に気付いてその方向へ飛んだ。
 カーリアンは舌打ちし、兄をその場に待機させたまま、自分もアテネの方へ向かう。この間にも数名が根のところへ引きずられて行った。

「まだあたしの邪魔をしようと言うの? させないわよ」

 インティスとフェレナードの前に立ちはだかると、ミゼリットは人一人分にもなる火の玉を、二人の足下へ撃って見せた。

「……っ、やっぱり、威力は相当だな」

 契約した風の精霊を使って、灰色に濁る爆風を吹き飛ばしながらフェレナードが呟く。こういう時の不明瞭な視界は、自分たちの命を脅かしかねない。
 案の定、ミゼリットは濁った風を利用してインティスのすぐ目の前まで来ていた。気付いたインティスが後ろに飛んで、距離を保つ。

 本当に目の前の彼女が自分の母親なのだろうか。母親というのは、自分の子供にこういうことをするものなのだろうか。

 トキトから話は聞いたものの、蘇りの木を使って恋人を蘇らせようと何人もの命を奪っている彼女と、それを止めようとしている自分たち、どちらが正しいのかと聞かれれば、正論だけで言えばこちら側だ。どんな理由があっても、他人の命を利用することは許されない。
 そして、彼女が自分たちの命を脅かそうとするのなら抵抗するしかない。
 アテネの救出の一端を担うために、自分はここまできたのだ。

 彼女がさらわれた夜、この手で振った剣が、彼女の服とその下の皮膚をわずかに裂いた感触。
 それを追いやるように、必死に首を振る。
 相手が母親だろうが、誰であろうが関係ない。

 インティスは剣を抜いた。
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