在るべきところへ

リエ馨

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◆在るべきところへ◇16話◇炎の力を ④

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◆在るべきところへ◇16話◇炎の力を ④


 真っ暗な空間は、根に覆われた向こうの様子を映し、インティスに見せた。

 これまで狂人かと思うほどの顔つきで危害を加えてきたのに、ジャドニックを前にしたミゼリットは少女そのものだった。待ち焦がれた時が訪れたと、瞳が喜びに潤んでいる。その可憐で一途な表情に、惹き込まれない人間はいないように思えた。

 この世界を見放した神々に対し、もう一度その力を分け与えてほしいと説得し、成功したと言われている神域の四傑士。
 彼女がその中の一人である理由が、ようやくわかったような気がした。
 そして、その幸せに満ち足りた笑顔は、この瞬間のためにこれまで自分が生かされたのだと言われても、納得してしまいそうなほどだった。

 なのに、まだ体の中を後悔の感情が流れていて、悲しい気持ちが拭えない。

 ねえ、どうしてそんなに悲しいの?

 もう一度その感情に問いかけたが、やはり返事はない。
 首を巡らせると黒い水晶が見えたが、その上にぼんやりと赤い木が浮かんでいることから、それは距離からして大木の根の真下辺りに置かれているようだ。
 水晶には大木の赤い色が流れ込んでいるが、水晶に触れた途端に真っ黒になってしまう。それは闇を閉じこめたような色だった。

 水晶はしばらくそこに存在していたが、見えない誰かが持ち去るようにふわふわと浮いて、そのうち見えなくなってしまった。


    ◇


 不穏な亀裂が走るように、ミゼリットの表情が変わっていく。

「ねえ、どうして出られないの? あたしと一緒に、この神域で暮らしましょう? ねえ」

 ミゼリットがいくら触れても、ジャドニックは未だ赤い幹に埋められたままだった。
 目は覚めたものの喋ることもなく、ただ辛そうな表情のまま空を見つめている。

「花が咲いたら生き返ることができるんでしょう? ねえ、ねえってば」

 ミゼリットの声音が苛立ちを帯び始めた。
 彼女の力の影響で、空気が振動しているのがフェレナードにもわかった。
 まとう炎は初めて見た時よりも膨張し、今にも爆発しそうだ。
 近くでは空気や塵が弾ける音がするし、一触即発である。

「白は再生の色と言われてるけど、赤は炎を表しているようね。再生と炎なんて結びつかない。この木はやっぱりおかしいわ」
「再生の花がすぐに散るのも良くない。蘇りの木とやらではないことは確かだ」
「何とかしたいけど、あの子のせいで精霊が言うことを聞かないわ」

 カーリアンが上にいるミゼリットに視線をやってそう言うと、レイは舌打ちして彼女を見上げた。

「ミゼやめろ! ジャドは生き返らない!」
「どうして何も答えてくれないの! ねえっ!」

 レイの声は、ミゼリットには届かなかった。

 目を開けただけの恋人の姿。
 現実に絶望したミゼリットが、ありったけの声で怒鳴った。

 大きな爆発音と、辺りには瞬時に大きな炎の衝撃波が走った。
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