在るべきところへ

リエ馨

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◆在るべきところへ◇19話◇再構築の代償 ①

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◆在るべきところへ◇19話◇再構築の代償 ①


 神々に忘れられていた小さな島に、三人目の神が精霊を住まわせた。

 一人の人間が島に下り立ち、彼らの働きを見守った。

 やがて、その島に住む人間同士は二つの国で争うようになり、島が傷つくことを悲しんだその人間は、国を分断することにした。

 争いは、なくなった。

 神域の四傑士と同じくらい有名な神話だ。

 分断は、絶対的な平和の条件となった。


    ◇


 火柱が収まった途端に大地が様相を変え、レイが急いで皆をまとめはじめた。
 土壁が次々と剥がれ、崩れてくる。

 カーリアンが怪訝な顔をした。

「炎が強すぎて、僅かに残っていた土の精霊が反発を始めたみたいね」

 元々ここは神々の住む島で、万物は精霊やそれらを統べる神が存在しないと彩りもない。
 彼らは特別な奥地に存在しているため、この地に草木はあっても本来の色を持たないのだ。
 だが、炎に関しては、アテネがこの地に残る数少ない精霊を呼び寄せて作ったり、ミゼリットが直接精霊を使役している。人間を木の元に運んでいた土塊を誰が作ったのかはわからないが、それにも土の精霊がわずかながら働いていた。
 神域の端とはいえ、炎やら土やらが勝手に騒いでいることに奥地の彼らが気付いたら、いい気はしないはずだ。

 だが、ひとまずこの崩落から脱出しなければならない。

「レイ……」
「気が付いたね、立てるかい」

 目を覚ましたインティスに、レイが声をかけた。

「……うん」

 頷いてレイの腕から抜けると、地盤の揺れで最初はふらついたものの、すぐにバランスを取ることができた。重心を移動させる度に、体がずしんと重かったり、ふわふわと軽かったりする。

「……なんか、変な感じがする……」
「最初のうちはね。継承で得た炎の力が馴染めば、違和感はなくなるよ」
「そう……」
「それじゃ、すまないがアテネを頼む」

 継承、という言葉の余韻を与えないよう、レイはすぐに指示を出した。

「フェレナード、君は源石を持って来てるかい」
「はい、あります」

 地割れと土壁の崩落が始まる中、アテネをインティスに託しながらフェレナードが答えた。

「じゃあそれを使って、風の精霊に全員を上にあげるよう頼んでくれ」
「全員をですか」

 フェレナードはさすがに自信がなかった。魔法が使えると言っても、目の前の兄妹に比べれば素人のようなものだ。ましてや全員と言うと数も多い。
 対象が複数だと指示が複雑になって精霊が嫌がるし、この精霊の少ない大地のせいで言うことを聞かせにくくなっている。

「あたしが水で舟を作るわ。風にはそれ一つ運ばせるだけでいいって言って」

 ライネの声がすぐ近くで聞こえたと思うと、足下に突然水が湧き出した。
 水は波飛沫を折り曲げたような舟の形になり、ライネも同じような舟で、水の膜で守っていた人間たちを乗せて滑り込んできた。
 二つの舟はぶつかったところで溶け合うと、大きな一つの舟になった。
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