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一章

幕間 パシリの戦い方

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 ゼルクさん達の家にやってきた。

 先日の戦いでは、兵の頭上で時計を落としてクレアちゃんを助けた。しかし、流石に魔人にそれが通用するとも思えない。
 だから今日は、オレなりの戦い方を考える。こういう事は専門家を交えた方が話が早そうだ。
 扉を叩くと声が返ってくる。

「来たか。空いてるぜ」

 言われて入るとゼルクさんが料理をしていた。ゼリカさんの姿はないが、洗濯か何かに行っているのだろう。

「悪いな。昼と夜の下ごしらえをさっさと済ましておきたくてな。椅子にでも座って待っていてくれ」

 言われるがままに椅子に座る。年季は入っているがかなり大きく丈夫なものだ。二人の体格を考えれば当然かもしれない。

「……しかし違和感がスゲェな……。勝手に扉があいたと思えば、椅子が自分から動いたように見える。サラ嬢の屋敷で姿を見てなけりゃ、仲間とわかっても警戒してるところだ」

 ぼやきながらも作業をするゼルクさん。彼は荒くれもののイメージが強いので意外な姿だ。多分、ゼリカさんに言われてしているのだろうが。


 おや? ゼリカさんも戻ってきたようだ。

「戻ったよ。玉木はまだ来てないのかい?」

「手前の椅子に座っているみたいだぜ」

「……本当かい? 判断がつかないねぇ……」

 そう言われて軽く机を叩いて音を出す。するとゼリカさんも大体の姿が予想出来たようだ。

「間近で見ても訳がわからないねぇ……。まぁ、客は客だ。茶でも飲むかい?」

「ピッ! ピッ!」

 持ってきている笛を2回吹いて否定を示す。因みに1回は肯定。3回はその他だ。

「……ひょっとして、魔人は食事の必要が無いのかい?」

「ピッ!」

 魔人は食事の必要もないようだ。しかし、それならば何故口がついているのか。そしてなんのエネルギーで活動しているのか。自分でもよくわからない。

「睡眠も必要ないんだろ? じゃあどうやって生命維持してんだ? お前は理由を知っているのか?」

「ピッ! ピッ!」

「……そうか。しかし生まれてはじめてだぜ。こんな訳のわからんやり取りをすんのはよ」

「本当にねぇ……。これが仲間だってんだから世も末だね」

 二人は困惑しながらも、一応オレのことは仲間として認識してくれているようだ。ゲームの時に、この二人を使わない縛りプレイをしたことがあるが、クリアが大変だったのだ。強キャラの二人に受け入れてもらえるのはありがたい。


 と、ゼルクさんが椅子に座る。どうやら作業は終わったようだ

「全くだ。まぁ、それでもこうして話すのははじめてだ。お前は知ってるかもしらんが、一応改めて自己紹介しとくか。
 オレはゼルク。この国の騎士だ。だが、部隊を率いて戦うわけじゃない。オレたちは基本的に個々人で戦う。だから二人揃っての異名が『双竜』だ」

「あたしは妹のゼリカ。これでもあたしたちの名前は他国にも知れ渡っている。戦いなら頼りにしてくれていい」

 そう言われ、オレも自己紹介文を書く。その様子を二人は興味深そうに見ている。

『頼りにしています。オレの名前は玉木といいます。先日のサラちゃんの話の通り、異世界から召喚された魔人です。お二人の事は元の世界の情報で、少しだけ知っています。三年後の戦いでも、お二人の力は重要になります』

「……サラちゃんってお前、ホントにサラ嬢と仲が良いんだな。その単語だけ見てたら胡散臭さしかなかったと思うが……」

「そこを自覚していたから、クレアやシル坊への手紙はあんな書き方だったのかい?」

「ピッ!」

「そうか。まぁ手紙の内容や今のを見る限り馬鹿じゃないってのは分かるな。しかし、なんだって戦い方を? お前の能力ならそれだけで戦えるんじゃねーのか?」

 ゼルクさんが質問する。そうだよな。オレの能力で戦えない方がおかしいよな。……でもなぁ……

『オレのいた世界は武力を持った戦いが殆どない世界でした。なのでフローラさん曰く、能力が無ければ、オレは素手のサラちゃんにも劣るそうです』

「なるほど? だが、そもそもサラ嬢はそれなりに強い。槍を持たせれば標準の兵士よりも上だ。だからサラ嬢に負けるって言ってもそのくらいなら問題ない気がするが……」

「ま、ここで話してもしょうがない。兄貴、ナイフでも持たせて模擬戦でもしたらどうだい?」

「そうだな。クレアの部屋から訓練用のナイフを取ってきてくれ。念のため、刃のないやつだ」

「あいよ」

「おし、玉木。付いてこい」


 ゼルクさんに連れられて、裏の広場に着いた。辺りが一部抉れているので、恐らくクレアちゃんともここで訓練しているんだろう。その後、やってきたゼリカさんからナイフを受け取り、ゴースト化する。

「ーー辛うじてあった気配が完全に消えたな。やっぱとんでもねぇ能力だ。さて、いつでもかかってきな」

 ゼルクさんは全方位を警戒している。だが、オレのゴーストを見破る事は出来ない筈だ。後ろからナイフを首に向かって振る。そして、直前にゴースト化を解除する。

 これでどうだ!

 ーーが、当たったと思った瞬間、彼の肩の筋肉が、オレの手からナイフを弾きとばす。え? オレの握力よりゼルクさんの肩回りの筋力の方が強いの? そう思う間もなく腕を掴まれ投げ飛ばされる。

 攻撃後、ゴースト化をすることも出来ず反撃を喰らったのだ。実践なら間違いなく死んでいる結果に声も出ない。


「ーーなるほど。こりゃあ素人だな。それも、その辺の素人に比べても弱い」

「兄貴の肩の力だけでナイフを手放すんじゃあ、魔人を暗殺することも難しそうだねぇ……。筋力も弱そうだ」

「ここまでだと、技術を身に着けることも無理だな。とても数年でどうにかなるレベルじゃねぇ」

「食事を取らない。それに汗もかかないって言ってなかったかい? と、なると、筋力の強化も出来ないんじゃないかい?」

 二人の冷静な批評を聞く。……ゲームではあの透明魔人とも戦える二人だ。強いんだろうとは思っていたがまさかここまで差があると思わなかった。しかもオレ自身の強化は難しそうだ。どうしよう……

「と、なると飛び道具だな。ボウガンでも持つしかない」

「それも巻いて絞るタイプだね。通常のボウガンじゃ筋力が足りないから、張りの強い弓を持たせても矢を装着できない。その代わり、この能力なら、戦闘中の隙は考えなくてもいい上に、ゼロ距離射撃が出来るから射撃の練習も必要ない」

「後は胡椒やトウガラシを入れた袋だな。魔人に効くかはしらんが、味方が洗脳された場合でも、足止めが出来る」

「そうだね。メインで戦うタイプじゃなく、サポートする役だ。玉木の存在が知られてないのはあたしたちにとって大きなアドバンテージ。だから存在がごまかせるサポート役は寧ろ都合がいい」

 おぉ! 流石は歴戦の勇士。こんな条件でも戦えそうな案が次々出てくる。

『ありがとうございます。参考になります。ボウガンの仕入れは王子を頼ればいいですか?』

「そうだな。オレからも伝えておこう」

 よし、これでオレも戦う準備が出来そうだ。ボウガンが手に入った後もゼルクさんに頼んで、戦闘訓練をしてみよう。少しは役に立てるようになる筈だ。だが、意気込んでいると、二人が可哀想なものを見る目をして、口を開く。

「しっかしお前……ホントに弱いんだな……。シルヴァへの手紙にも執拗に攻撃するなって書いていた理由が良くわかるぜ」

「そうだねぇ……。これ、下手したらクレアより弱いんじゃないのかい……?」


 フローラさんのように悪意が無い分、余計に胸に来る。
 ていうか……マジで? 特に何の訓練もしてこなかったであろうクレアちゃんよりも弱い可能性があるの? オレ、ホントに世界最弱レベルなんじゃないの……?
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