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二章

2神教の大聖堂

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 先週の会議で、枢機卿がクレアちゃんに挨拶したいと言い出した。そして王子もそれは必要だと考えたらしい。
 その為今日、クレアちゃんは朝から大聖堂に来ている。そのついでにと、オレも幻覚装置の確認の為にこっそりと来ている。だがーー

「クレア様? 何故この場にサラ様が?」

「ご、ごめんなさい。その……本当はゼルクさんかゼリカさんに付き添ってもらおうと思ってたんですが、どうしても外せない予定があって……それで、サラ様に付き添いをお願いしたんです」

「急な訪問大変申し訳ございません。ただ、私はあくまで付き添いですので、いない者として扱ってくださってかまいませんので」

「流石にそのような訳にもいきませんが……事情は理解しました」


 そう。今回はサラちゃんとクレアちゃんの二人で大聖堂に来ているのだ。
 そしてゼルクさん達の遠征。実はそんなもの、全くの大嘘だ。

 それは先日、メルク君から不参加の事情を聞いた後の事ーー


~~~~~~~~~~~~~


「では、僕とマリアはこれで失礼します」

 そう言って二人が立ち去った後、周囲に人がいない事を確認してからサラちゃんに話しかける。

「なんか、驚いたね。そんな事情で戦いに参加出来ないなんて」

「ホントにね。流石に想定外だわ」

「でも、サラちゃんもメルク君の事は信用できると考えてるんでしょ?」

「……枢機卿殿の悪い噂は聞いたことが無いわ。そんな相手ーーそれも自分の父親のデマを言いふらすなんて、イタズラや反抗期にしてはリスクが高すぎる。メルク様がそこに気づかない筈がないもの」

「だよね。メルク君の勘違いや早とちりならいいけど……そんな雰囲気じゃなかったよね?」

「えぇ。慎重な方だからね。何か根拠があるんでしょうね」

「それが何かだね。上手くいけば、メルク君には仲間になってもらえるかもね」

「そうね。だからまずは枢機卿の調査をーー」

「あ、あの……サラ様?」


 クレアちゃんが小さく手を上げて、おずおずと話しかける。

「あ、ごめんなさい。今、玉木と今後について相談してたの」

「は、はい。なんとなく話の内容はわかります。それでなんですが……私、明日は学校をお休みして大聖堂に行くことになっているんです」

 クレアちゃんの言葉で先週の会議を思い出す。
 あぁ。そういえばそんな話が挙がってたな。だけどーー

「そうなの? でも、どうして平日なの? 昨日なら学校もお休みだったのに」

「目的としては司教様~教皇様までへの顔見せらしいんですが、教会が何をしているのかも知っておかないといけないらしくて……。だから普段の業務を見る事も目的らしいんです」

 ふむふむ。いわゆる社会科見学かな? 確かに2神教は神剣と神鏡を崇拝している。その使い手のクレアちゃんは神に近い立場だ。教会の事を何も知らないのは問題だわな。

「成程ね。それで明日なのね」

「はい。それで、付き添いをゼリカさんにお願いしようと考えているんですが、何か気にかけておくべきことはありますか?」

「そうね……」

 サラちゃんが右ひじを抱え俯く。そして数刻ほど経ってから、顔を上げた。

「ーーいえ、双竜のお二人は行かない方がいいわね」

「え!? じゃ、じゃあ付き添いなしってことですか!? で、でも……」

 サラちゃんの言葉にワタワタと焦るクレアちゃん。小動物みたいでかわいい。

「分かってるわ。でも、メルク様から口止めされている以上、勝手にゼリカ様に話す訳にもいかない。
 それに、簡単に尻尾を出す相手じゃない筈。ゼリカ様が一緒だと警戒されかねないわ」

「そ、それはそうですけど、私1人でなんて……」

「えぇ。クレアにはまだそういう駆け引きは難しいかもね。だからーー私が付き添うわ」

「えぇぇぇぇ!???」


~~~~~~~~~~~~~


 こうして、平民の付き添いに公爵令嬢がやってくるという事態になった。まぁ相手もゼリカさんよりはサラちゃんの方が油断するかもしれない。


「成程。あの男が今回の調査対象なのですね?」
 
 考え事をしていたオレの背中から声がする。
 幻覚装置の確認も今日の目的の一つだ。だが、幻覚を見抜くには当然パートナーがいる。そしてサラちゃんがクレアちゃんの付き添いである以上、今回のパートナーは必然的にーー

「いや……まぁ、そうなんだけど……」

「なんですか? その歯切れの悪い回答は? 大きな口で喋れるよう、両頬を切り開いてさしあげましょうか?」

 そう。フローラさんだ。

「あのさ……なんでフローラさんはそれが分かるの? 調査の目的は幻覚装置の確認だとしか言ってないよ?」

「そんなもの、いくらでも予想がつきます」

 その一言の後、一呼吸おいて続きを話し出す。

「そもそも何故、クレア様の付き添いがお嬢様なのか。普通であれば護衛も兼ねてゼリカ様にお願いするのが順当でしょう。なのにわざわざお嬢様を指定し、お嬢様もそれに賛同した。と、なればゼリカ様とお嬢様の違いがその理由なのでしょう」

「そうだね」

「では、その違いは何か。例えば爵位。お嬢様は公爵令嬢。それなりの権威があります。しかし、権威目的ならばそれこそシルヴァ殿下にご同行をお願いするでしょう」

「まぁね」

「次に武力。そして武力がないと何が良いか? 例えば……相手の油断を誘う、でしょうか?」

「……だね」

「そして油断を誘うなら誰に向けてのものか。ゼリカ様が傍にいなければ、今のクレア様は魔人にとっては格好の餌食。なら、その襲撃を誘うため? ですが、貴方は武器を持っていない上、警戒度も高くない」

「……うん」

「そうなると、対人での駆け引きが考えられます。先ほど述べたように公爵令嬢であるお嬢様には当然それなりの権威があります。ですが半面、まだ幼い故に甘く見られます。だからこそ、相手の隙を引き出せる可能性があるでしょう」

「……」

「最後に、あの男に向けるお嬢様の目。アレはお嬢様が政敵に向ける目です。と、なると今回の調査はあの男の調査なのでしょう」

「……何か違うの? オレにはいつもと同じに見えるけど?」

「当然です。お嬢様が簡単に思考を読ませるとお思いですか? お嬢様の嘘と本音を判別できるのは私か旦那様くらいでしょうね」

「……最後の決め手は理屈じゃなくてストーカーの嗅覚か……」

「何か言いましたか?」

「何でもありません」


 背後の殺気に気づかないふりをしつつ、フローラさんの足を持ち直す。
 基本的にオレの筋力は人並みにしかないので、お姫様抱っこなどまず無理だ。サラちゃんだろうとフローラさんだろうとおんぶで移動するしかない。

「ていうかさ……フローラさんのその服はなんなの? 普通に普段着とかスーツとかじゃダメだったの?」

「セクハラですか? ピッチりとした服を着させて私の四肢を堪能したいと? ……自分で言って鳥肌が立ちますね」

「知らないしそうじゃないよ……。その改造メイド服についてだよ……」

 そう。フローラさんは今日もメイド服だ。だが、下半身は普段のロングスカートではなく、少しゆとりのあるパンツルックだ。メイドコスに一家言ある人なら怒るかもな。……メイドコスに一家言ある人ってなんだ。

「当たり前でしょう。ロングスカートでおんぶされると、どうしても素足を掴まれる。それが嫌だからこのようなスタイルなのです。貴方はお嬢様相手にも平気でそのようなことをしていますが」

「いや……パンツルックな理由じゃなくてメイド服にこだわる理由なんだけど……」

「やはり頭が沸いているようですね。お嬢様の専属メイドである私がこれを着ないなどありえません」

「あぁ……。さようでございますか……」

 よくわからないフローラさんの回答。もう考える事はやめよう。
 そしてサラちゃんとクレアちゃんは、枢機卿からざっくりとした説明を聞き終えて先に進むようだ。オレ達も後を追おう。
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