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ベレーナ・ターン7
しおりを挟む「ね、来てよかったでしょう?」
「お嬢様。一体何を書いて置いてきたんですか?」
知らぬ顔しているのはユニスであって、まだ侍女になってからと言うもののユニスより日が浅いマリがまたもや騒いでいる。
あの日、カリンと話した日の夜に王都を抜けてこっちのフェールの古城についたのは次の日の朝という具合だったけれどそんな事はどうでもいいのよ。
わたくしたちは無事にやり遂げなければいけないことがって、第一難関突破と言ったところかしら。
「それはヒ・ミ・ツですわ、マリ。今にわかるでしょうね。で、フェールの古城は良いところでしょう?」
「そうれはそうですけれど。お嬢様がその顔しているとあとが怖いですよ」
「あら、そうかしら」
「そうです」
きっぱり断られてしまった。侍女の信頼が無いのは主のせいか。どちらのせよ、わたくしに信用がないのはわたくしのせいだということは自覚している。
フェールの古城はローゼンハイン家が代々所有しているお城である。また初代の公爵が、外交のために北東部に接しているメルー王国、北西部に接しているスウェール王国に接しているまあ、3つの国が接している三角地点にあるお城である。今はもう、新フェール城というお城が数代前に出来てそちらの方が使われているため、この古城は大して何もない。
あるのは穏やかな空気――のはずなんだけど、戦争による緊張状態のせいで張り詰めるように冷たい空気が張っているのは言うまでも無いでしょう。
「お嬢様。これからどうするんですか」
「そうね。下町に行こうと思っているわ」
特に意味は無いのだが、わたくしがそういった瞬間、マリはピシッと固まった。
「お嬢様……お忍びですか」
「?いいえ。庶民の格好をして行くのよ。ああ、どうせならあっちの小屋の家の方に住もうかしらね」
わたくしは固まっているマリに向かって微笑んだ。この微笑みでマリは更に怒ったらしい。――わたくしの知るところではありませんけれどね。
あっちの小屋とは、フェールにローゼンハイン家が所有している下町にある家で、密偵とかがよく使ったりもする。
「それを良いと思っているのですか!?誰が家事をするのですか」
「わたくしよ?出来ないと思っていたの、マリ」
出来ないわけ無いでしょう!ああ、普通の公爵令嬢だったら出来ないかも知れませんけどあいにく普通の公爵令嬢ではありませんからね。
ええ、掃除でも料理でも何でもやってやりますわよ。完璧に文句が付けられないほどにね。
残念ながらマリにはにわかに信じられないことだったらしい。
「お嬢様は何を考えているのですか!?そんな事をしていいとでも思っているのですか?」
「何で?わたくし、ここに来た時にしばらく公爵令嬢の肩書は捨てるつもりよ?」
「だから、何を考えているのですか!?」
「ああ、もう!何でもいいでしょう!」
今度こそマリは本気で怒った。
でも、これこそがわたくしが望んでいたこと。
マリは怒るとどっかに行っちゃうから助言もといい止めてくることは無くなる。
ユニスはわたくしのことを諦めているから問題ないとでも言えばいいかしら?
「ユニス。今から行くから用意をしてくれる?」
「ええ、分かりましたよお嬢様」
ユニスはやれやれというように首を振ると、苦笑して荷物から村娘の服を取り出した。
「お嬢様。ご自分でお召になりますか?」
「ええ、そうすることにするわ」
「そうですか。それはご立派でございますわね」
「ユニス。からかわないでよ!わたくしもう18よ?」
「ああ、そうでございましたわねぇ」
「もう!」
ユニスはわたくしの母でもあるような人ゆえ、完璧にわたくしのことを分かっている。
それが良いときと、悪い時があるのは否定できなく、今は後者よ。
わたくしは頬を膨らましながらもその服を着た。
「ユニス。変なところはない?」
「ええ、まっったくありませんよ。全く、公爵令嬢がこんな事をしているなんて誰が想像しますかねぇ」
ユニスは心底信じられないというように首を振る。
それがまたわたくしは恥ずかしくなって……。
「もう。反対しなかったのはユニスでしょう?」
わたくしは腰に手を当てながら言った。
「そうです。お嬢様は反対しても聞きませんから。マリ。良いです?そろそろ分かってもらいたいですがね。一通りやらせれば満足しますよ」
ユニスは別に気にする風もなく、声を潜めることも無くさらっとわたくしの悪口をマリに叩き込んだ。
――わたくしだってそんな事言われたくありませんからね。マリが物わかりの悪い侍女なだけでしょう。まったく、どいつ……みんなそろって何なのかしら。
「行ってくるわね。あとよろしく」
わたくしは後ろを振り返ること無く城を飛び出した。
護衛はついてきていない。
わたくしは後ろを確認して安心する。
途中で変装したからついて来れるはずも無いのだけれどね。
ふっ。普通の公爵令嬢ではないわたくしを侮らないことよ。
でも……
「飛び出してきたは良いものの、どうしようかしら」
とりあえず、街の様子でも見るとしようかしら。
結果的に言うと、フェールは平和だった。
街の物価も落ち着いていたし、街の治安が良いことを見ると公爵家の管理は行き届いているらしかった。
街も綺麗で、とくにこれと言った問題はない。
「戦の情報に箝口令が敷かれているのかしら。それとも、分かった上で……?」
わたくしが立ち止まっていると後ろから声がした。
「お嬢ちゃん?今は一人でいると危ないよ。ここは良いけど隣の領地はね。覚えておいたほうが良い。で、あなた綺麗だねぇ」
話しかけてきたのは食べ物のお店のおばさん。
その言葉を聞いてハッとした。
隣の領地。フォンメル伯爵のヴェーメル領。元々治安は良くなかったが、荒れるだろう。
「ありがとうございます。ワッフ、一つくれますか?」
ワッフとは甘いパンみたいな焼き菓子でこちらではジャムをつけて食べ、王都の方では楓などをつけて食べられる。
「分かったよ。で、気をつけなさいね。きれいな子ほど狙われやすいんだから。ほら、ワッフ」
目の前にホカホカのワッフが出された。そこにクッキーを見つけてわたくしは目を見張った。
「あの、大丈夫です」
「ほら、持っていきなさい。最近客が減っているからね」
おばさんはそう言うとちょっと苦笑した。
「食料を買うからですか?」
「そうさ。もっぱらおやつなどは売れなくてねぇ。さ、もうお行き」
「ありがとうございます」
わたくしは笑うとそこを後にした。
戦の箝口令は敷かれていない。
それとも、領民は察しているのか。
どちらにせよ、まずいことには変わりなさそうだ。
とそこでわたくしは裏道に来てしまったとこに気づく。
そして、不審者にも。
「だれ?」
わたくしが振り返ると北の国の特徴的な目、色素の薄い茶色の目をスッとまっすぐに見つめる。
フードを被っている男。
「きゃっ。何するの?」
「お前、こっちに来い」
男はわたくしの手首を掴むとわたくしをそばに寄せた。
ってねぇ。わたくしが素直にやられるとでも思っているのかしら?
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