身代わりから始まる恋の行方は夜想曲と共に

りんか

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第一章 彼女の決断

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「だが、おまえは自称・罪人だ。おまえの行動の一つ一つを、きちんと監視する者が必要だということがわからんのか? おまえがちゃんと自室に戻った、という確かな証拠が俺は欲しいんだよ」
「自室以外、どこにも行きませんし逃げもしません! わたしを信用してください!」

 自身の胸元を押さえながら、フィルロードは声を張りあげる。

 が、ジュシルスは口元に手をあてて笑うと、フィルロードの強い主張を軽く流した。

「罪人はみな、口をそろえてそう言うものだ。それに、姫はおまえの『自室』を知る数少ない方だ。ちょうど良いではないか」
「そういう問題では!」

 さらに言いつのるフィルロードと、まったく取り合おうとしないジュシルス。

 二人の言い合いを不安そうに見つめていたリリーシャは、強く拳をにぎると、「……わかり、ました」と小声で口にした。

 驚きに見開かれた紅の瞳と、それと同じ色の瞳が少し間を置いて彼女へと注がれる。

「私で証人になるのでしたら、そのように致しましょう」
「姫!?」
「おお、それは助かります。よかったではないか、フィルロード」
「……っ」

 ジュシルスがフィルロードに話を振れば、フィルロードは何か言いたげに鋭い視線でジュシルスを睨みつけたまま口を開いたが、すぐに引き結ぶと顔をそらす。

 クククッ、と楽しげに肩を揺らしたジュシルスは執務机から身を離すと、リリーシャへ笑顔を向けた。

「では、リリーシャ姫。我が愚弟をお頼み申しあげます」


 ***


 それから。

「あなたが、先に行ってくださいますか? 私はあなたを――、監視しないといけませんから」
「……はい」

 最初にそう言葉を交わしたのち、どちらも一言も発することなく、城の廊下を移動する。
 沈黙が続く中、フィルロードが前を歩き、それから三歩ほど遅れてリリーシャがついていく。

 どこをどう通ったかよく覚えていないまま、リリーシャはフィルロードが足を止めるのと一緒に立ち止まった。

 そこは、彼女自身も見覚えのあるフィルロードの部屋。
 今は騎士として騎士の隊舎の方で生活をしてはいるが、正式な騎士になるまでリリーシャの母から与えられていた、城内にある彼の部屋。使用することはなくなったはずのその部屋だが、リリセニーナの計らいもあって、彼が出て行く前の状態で残されていた。

 幼いころは、なんの気兼ねもなく出入りしていたはずのその場所が、今は――どこか遠くに感じてしまう。

 鍵はかかっていなかったらしい、部屋の扉を開けて、フィルロードが中に入っていく。
 その動きを目で追ってから、リリーシャは部屋の一歩手前で小さくうなずいた。

「確認、致しました。のちほど、ジュシルス団長には私から報告をしておきますね」

 半分ほど開かれた扉を挟んで、リリーシャに向き直ったフィルロードが深々と腰を折る。

「……はい。わたしなどのために姫の御手を煩わせてしまい、申し訳ありませんでした」
「いいえ。お役に立てたのなら、嬉しいです」

 懸命に笑顔を作りながら、リリーシャはそう告げた。

 ――あなたのために、私は何ができますか?
 本当なら、これは私が請け負う罰なのに。

 姉さまに進言をすれば、きっと理由を尋ねられる。あなたが黙秘している罪を、どうして私が知っているのか。それを言えば、あなたの罰は取り消されるかもしれないけれど。

 罪を犯してまでその腕に抱いたのが姉さまではなかったことを知ったら、あなたは……

 思いつめたように黙りこんでしまったリリーシャに、フィルロードが怪訝そうに眉を寄せた。

「姫?」
「あ……、すみません。少し……、考え事をしていました」

 ハッと我に返って、リリーシャはあわててフィルロードに微笑する。

「早く、謹慎が解かれるといいですね。では、私はこれで……」

 リリーシャが踵を返してその場を立ち去ろうとすると、「ま、待ってください!」と彼女の後方から声があがった。

 首をめぐらせたリリーシャの瞳に、じっと注がれてきたのは紅の視線。

「せっかく……、このようなところまで足を運んでくださったのです。もう少しだけ、あなたの時間を頂くことはできませんか?」
「で、ですが、私は……」

 戸惑うリリーシャに、フィルロードはスッと右手を差し出してくる。

「あと、少しだけでいいんです」
「…………」

 フィルロードの顔と手を何度も交互に見やりながら、困り果てたリリーシャは胸元で手を握る。彼女の足が一歩、後方にさがった。

 それにはじかれたように、フィルロードは空のままの右手をグッと握りしめた。

「――ご無礼を。失礼します、姫」
「え? あ……っ!」

 急に伸ばされてきた指たちに二の腕をつかまれ、リリーシャの細身が部屋の中に引っ張りこまれていく。
 何が起きたのか理解が追いつかないまま、パタン、と扉が閉められた音にリリーシャはようやく我に返った。

 つながれた腕が、ひどく痛い。
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