身代わりから始まる恋の行方は夜想曲と共に

りんか

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第二章 彼の決断

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「ジュシルス、団長」
「ジュシルス……、私は、私は……!」

 男の名前を同時に口にしながら、フィルロードはグッと拳を握りしめ、リリセニーナは男の胸元に顔を寄せる。

 リリセニーナの肩を抱き、男――ジュシルスはそっとその耳元にささやきかけた。

「お気をお静めください、女王代行殿下。私は、ここにいます。さあ、こちらへ」

 リリセニーナを気遣いながら、ジュシルスは部屋の隅の方で彼女を椅子に座らせると、一息つく間もなく、荒々しい足音が響いてくる。

「ジュシルス団長、どういうことですか!? わたしが謹慎になってから、姫の身に何かあったのですか!?」
「いいからおまえも落ち着け、フィルロード」

 詰め寄ってくるフィルロードを制し、ジュシルスはリリセニーナから離れた位置に移動してから嘆息する。睨みつけてくる赤い眼差しに、同じ色だが冷静な光をともした瞳が注がれた。

「リリーシャ姫が、城から姿を消した」
「な……、姫が!?」
「何者かにかどわかされたのか、はたまた姫ご自身のご意志なのかは今のところ見当はついていないがな。……ご無事でいらっしゃるのかも、わからん」

 両腕を組んで右足に体重をかけながら、ジュシルスは抑えた声で淡々と説明する。
 唇を噛みしめて聞いていたフィルロードは、無言でジュシルスの横を通り抜けていく。

「どこに行くつもりだ?」

 呼び止められ、フィルロードの足が扉近くで止まった。

「……こんなところで、悠長にしている場合ではありませんから」

 背中合わせのまま、フィルロードは押し殺したような低い声で返す。

 フッ、とジュシルスが鼻で笑った。

「だが、おまえは謹慎の身だぞ。ここで大人しくしているのが、騎士としてのおまえに課せられた今の義務のはずだが?」
「わかっています!」

 ジュシルスの指摘に、はじかれたように振り返ったフィルロードが声を荒げる。

「わかっていますが……! 何もせずに、ただ指をくわえてここでじっと待っているだけなんて、出来るわけがない!!」

 激昂したフィルロードをしり目に弟の横を飄々とすり抜けていき、ジュシルスは流れるように踵を返すと、この部屋の唯一の出入り口である扉によりかかって腕を組みなおす。

 兄の行動を追っていたフィルロードの紅の瞳が、鋭さを増した。

「……そこを、どいてください」
「そう言われて、素直にどくとでも?」
「守れなければ、意味がないんです……!」
「意味? ほお、どのような?」
「……っ」
「言えないような意味、か。なるほどな」

 扉から背中を浮かし、ジュシルスは背筋を伸ばす。

「そもそもこの国の騎士たる者、第一に守らなければならないのはこの国、そして女王代行殿下のはずだが?」
「……わかって、います!」

 振り絞るような、声音。
 フィルロードはグッと奥歯を噛み、爪が手のひらに食いこむほど拳を握りしめる。

「この国が今、どのような状況か。謹慎中のおまえにも、耳くらいには入っているだろう?」
「ええ、もちろん!」

 声が大きくなり、それにつられるようにフィルロードの足が一歩前に踏み出された。

「ならば、今のおまえが真っ先に何をしなければならないか、わかるはずだが? それに」

 指をあご先に絡めながら、ジュシルスは赤い瞳を剣呑に細める。

「謹慎中に勝手な行動を起こした場合、反逆の意志ありとみなされ、重罪に処される可能性があるのも理解しているな?」
「っ」

 フィルロードの息が一瞬つまり、ギリッと歯がさらに食いしばられた、次の瞬間。彼の両手がジュシルスの胸元を強く掴み、引き寄せていた。

 同じ色の眼差しが、一方は荒々しい激情をこめて、もう一方はそれを冷ややかに受け止める。

「……どうぞ、ご自由に処分なさってください! 騎士の位を返上せよと言われても構わない! 姫を……、リリーを失うくらいなら、そっちの方がはるかにましだ!!」
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