身代わりから始まる恋の行方は夜想曲と共に

りんか

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第四章 隣国ウィンスベル

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 もし――、もし仮にそれがあなたご自身の意志で、この国のためだったとしたら。

 わたしはそれを尊重して、あなたの決断に心からの敬意を払わなければならない。最大限の感謝を述べなければならない。それが、騎士としてのわたしの責務だから。

 でも――、それがもし、国のためではない俺のためだというのなら。それは王族とは関係ない、きみ自身の意志。

 自惚れかもしれない、ただの勘違いかもしれない。
 それでも。

「俺は……」

 うつむいていた顔を、前に戻す。
 金色の髪が揺れる中、決意を帯びた紅の両目が真っすぐに宙を射貫いていった。



 第四章 隣国ウィンスベル



「ウィンスベルに、ですか?」
「……はい。用意が整い次第、出立しようと思います」

 不安そうに尋ねられ、フィルロードは返事をしながら伏せていた顔を上げた。

 部屋を出たフィルロードが、真っすぐに向かった先は王の間だった。呼ばれているわけでも、先約があるわけでもない。突然の謁見にも関わらず、すぐに迎え入れられて貰えた。

 二つ並べられた玉座の一つ。その横に佇んでいたリリセニーナは、唇に指先を当てて思案顔で再度フィルロードに問いかけた。

「それは……、あの件が絡んでいるのですか?」
「詳しいことは、ジュシルス団長にお尋ねください。わたし以下騎士団の四人、しばらくこの城を空けることと、そして騎士の職務を放棄すること、どうかお許しを」
「わかりました。テューラー卿にも、そう伝えておきましょう。ですが、その人数で大丈夫なのですか?」
「戦いに行くわけではありませんので、少人数の方が目立たずに済みますから。それに今、この城の守備をこれ以上手薄にするわけにもいきません。敵は……、ウィンスベルだけとは限りませんので」
「……そう、ですね」

 憂いを帯びたリリセニーナの表情が、縦に動かされる。

「私に、何かできることはありませんか?」
「その言葉だけで十分です。ありがとうございます、リリセニーナ女王代行殿下」

 そう言って、フィルロードは微笑する。
 リリセニーナは淡黄色の瞳を細めながら、彼女もまた口元を小さく綻ばせた。

「フィルロード。何があったかはわかりませんが……、良い表情になりましたね。まるで、昔のあなたを彷彿とさせるようで、すごく頼もしいです」
「……もったいないお言葉」

 フィルロードは、頷くように目を伏せる。

「どうか、くれぐれも気をつけて」
「はっ。では、失礼します」

 頭を垂れて畏まってから、フィルロードは膝を伸ばして踵を返した。

 今から仲間たちと移動して、ウィンスベルに着くのはおよそ四日から五日後。そこからウィンスベルの内情を探って、それから――

「フィルロード」

 考えに耽りながら謁見の間を後にしたフィルロードに、横手から声がかけれる。
 思考と足を止めて見れば、こちらに歩み寄ってくる兄ジュシルスの姿。じ、とフィルロードを凝視していた赤い瞳が和らいだ。

「どうやら、決めたようだな」
「……はい。ウィンスベルに行ってきます。リリセニーナ女王代行殿下にも今、許しを頂いてきたところです」
「そうか。捜索隊の他の連中も一緒に行くんだな?」
「はい。手伝って貰おうと思っています」
「わかった。もし、姫が――」

 ジュシルスは、そこで口をつぐんだ。目の前に突き出された手のひらと、強い視線。それを受けたジュシルスの口角が、フッとつりあがる。

「……その顔は、もうすべて承知済みということか。ならば――」

 ジュシルスは腰から自身の剣を鞘ごと引き抜くと、フィルロードに差し出した。

「この剣を持っていけ」
「え? ですが、それは……」

 戸惑うフィルロードに、ジュシルスはゆっくりと頷く。

「ああ。おまえも知っている通り、我がテューラー家に伝わる我らが父上の形見。少しは成長したらしいおまえに今回だけは預けてやるから、必ず返しに戻ってこい。いいな?」

 フィルロードの答えを聞くより先に、ジュシルスは剣を放った。
 慌ててそれを受けとめたフィルロードは、予想以上の重みに一瞬だが顔をしかめるが、すぐに兄を見た。

「……わかりました。必ず」

 深く頷いて、フィルロードは流れるようにその剣を腰に穿く。

「この城と、女王代行殿下のことは気にするな。俺がいる」
「ええ、わかっています。実を言えば……、最初からそのことに関しては頭にありませんでした」

 生真面目に答えてくるフィルロードの眉間を、ジュシルスが軽く小突いた。

「な……」
「この国の騎士らしからぬ発言だな。長としては、非常に由々しき問題に感じるが」
「……すみません」
「まあいい。……あまり気負いすぎるなよ。一人で思いつめるところも、おまえの悪い癖だ」

 面食らったように一気に表情を崩すフィルロードに小さく笑ってから、ジュシルスは口元を引き締める。

「あらかた撤退したとはいえ、まだ国境の辺りではいざこざが残っているかもしれん。ウィンスベルでは、ことを荒立て過ぎないように気をつけろ。無理だと判断したら、退くことも覚えておけ」
「はい」
「姫を……、リリーシャを頼むぞ」
「……はい」

 同じ紅の瞳が交差し、ジュシルスはフィルロードの肩を強く叩くと、その場を立ち去っていく。それを見送ってから、フィルロードもまた止めていた足を再開した。
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