消えた猟奇的殺人犯

チャロキメデス

文字の大きさ
5 / 10
第5章

高橋と今井

しおりを挟む
 高橋は腰の調子は大分回復していた。それでも今歩いてる坂道は、高橋の腰には良いものではなかった。

 今井は郊外に身を潜めていたが、娘の処にいでも会いに行けるようにか、例の事件現場からはそれ程遠くには居なかった。

 高橋は2階建てのアパートで足を止めた。「あれから2年か。」「今井さんの傷は癒えてはいないだろう。」ただ高橋は今井が会うことを承諾してくれたため、少し心境の変化があったのだろうと思った。

 高橋は2階に上がり、1番右端のドアの前に立った。インターフォンを押そうとしたとき、ガチャッとドアが開いた。

 ドアから今井さんの顔が覗いて見えた。やはり顔はやつれていたが、目は何処となく力を取り戻していたようにも見えた。

「来たか、高橋。」今井は少し微笑んだ。

「ご無沙汰しております。」高橋は挨拶をして、部屋に通して貰った。

「来ると思ってたよ。」「中西の件だろ。」
今井の方から本題を切り出してくれた。

 高橋はこの前の中西の殺人未遂のことについて今井に細かく説明した。今井は俯いて聞いていたが、時折深く頷く様子もあった。

「前に中西が普通じゃないって今井さんが言ってたのはこのことですか?」高橋が今井を覗き込む。

「それもある。」「消えるというのはおかしいよな。」

 今井と高橋は中西が消えるところを互いに経験している。今井は続けた。

「中西が普通じゃないのは、その精神だ。」「殺人も食事も排泄も奴にとっては一緒さ。」「奴の精神は既に凍りついている。」

高橋は頷く。

「先ず中西の能力に関してですが、信じられないことに奴は消える能力があります。」「だがこれは瞬間移動ではないし、限界もあるようです。」

「どういう事だ?」今井は高橋をまじまじと見た。

「中西が現場から消えて、10分後くらいに近くのコンビニに現れています。」
「現場の部屋からそのコンビニまで、歩いて丁度10分です。」
「つまり瞬間移動ではなく、中西はそこまで歩いている。」
高橋は続けた。

「そしてずっと消えることが出来ないため、移動先の防犯カメラなどに映り込んでしまう。恐らく一度に消えていられるのは最高10分前後。」

「俺も幾つか気が付いた事がある。」今井が言った。

「事件の後、娘が住んでいたマンションの管理人に話を聞いた。」
「マンション一階のオートロックドアの前に男がいて、娘の部屋のインターフォンを鳴らしたらしい。」
「娘はロックを解除しなかったが、その男は不意に消えたそうだ。」
「その後中西は娘の部屋に侵入している。」

高橋は頷いて言った。「つまり消えている間は建物はすり抜ける事ができる。」

「あぁ、そうだ。」
「だからやつは何処にでも潜伏出来るし、誰でも不意をついて殺せる。」
「これだけの能力だ、奴は自分の能力に絶大な信頼を寄せている、自信がある。」
「もしかしたら奴の過信が隙を生むかもしれない。」

高橋は頷く。

 今井は一つ気になる事があった。今回はこれを高橋に伝えておきたかった。きっとコレが中西を追い詰めるカギになる気がしていた。

「中西は初めて本当の感情を出したんだ。」
「消える前に、自分の服からほつれた糸がスタンドに引っかかっているのに気が付いて、焦って振り払った。」
「わざわざそれから消えたんだ。」

「つまり、ほつれた糸と電気スタンドが繋がっていたため、能力を発動出来なかった・・。」高橋が言った。

「お前は捜査一課に向いているよ」今井が微笑んだ。

 高橋はお礼を述べ、部屋から出ようとしたとき、今井に呼び止められた。

「今も娘の顔を思い出すんだ。あの悲痛な声も・・。」今井の顔は涙と鼻水でグシャグシャだった。
「俺は弱くて中西から、娘の死から逃げた。」「だが、やはりこのままでは・・。」今井は口籠った。「高橋、死ぬなよ・・。」

 高橋は自分の娘の葬式に出たとき、虚しい気持ちで暫くぼんやり抜け殻のように過ごしていたことがある。今井の場合は、ずっと一緒に過ごしてきた娘だし、目の前で殺害されている。その精神的なダメージは計り知れない。それでも中西逮捕のため、2年間の葛藤を乗り越え、情報提供してくれたのだ。

「今井さん、あなたの方が捜査一課に向いてますよ。」高橋は自然と敬礼をした。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...