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第5章
高橋と今井
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高橋は腰の調子は大分回復していた。それでも今歩いてる坂道は、高橋の腰には良いものではなかった。
今井は郊外に身を潜めていたが、娘の処にいでも会いに行けるようにか、例の事件現場からはそれ程遠くには居なかった。
高橋は2階建てのアパートで足を止めた。「あれから2年か。」「今井さんの傷は癒えてはいないだろう。」ただ高橋は今井が会うことを承諾してくれたため、少し心境の変化があったのだろうと思った。
高橋は2階に上がり、1番右端のドアの前に立った。インターフォンを押そうとしたとき、ガチャッとドアが開いた。
ドアから今井さんの顔が覗いて見えた。やはり顔はやつれていたが、目は何処となく力を取り戻していたようにも見えた。
「来たか、高橋。」今井は少し微笑んだ。
「ご無沙汰しております。」高橋は挨拶をして、部屋に通して貰った。
「来ると思ってたよ。」「中西の件だろ。」
今井の方から本題を切り出してくれた。
高橋はこの前の中西の殺人未遂のことについて今井に細かく説明した。今井は俯いて聞いていたが、時折深く頷く様子もあった。
「前に中西が普通じゃないって今井さんが言ってたのはこのことですか?」高橋が今井を覗き込む。
「それもある。」「消えるというのはおかしいよな。」
今井と高橋は中西が消えるところを互いに経験している。今井は続けた。
「中西が普通じゃないのは、その精神だ。」「殺人も食事も排泄も奴にとっては一緒さ。」「奴の精神は既に凍りついている。」
高橋は頷く。
「先ず中西の能力に関してですが、信じられないことに奴は消える能力があります。」「だがこれは瞬間移動ではないし、限界もあるようです。」
「どういう事だ?」今井は高橋をまじまじと見た。
「中西が現場から消えて、10分後くらいに近くのコンビニに現れています。」
「現場の部屋からそのコンビニまで、歩いて丁度10分です。」
「つまり瞬間移動ではなく、中西はそこまで歩いている。」
高橋は続けた。
「そしてずっと消えることが出来ないため、移動先の防犯カメラなどに映り込んでしまう。恐らく一度に消えていられるのは最高10分前後。」
「俺も幾つか気が付いた事がある。」今井が言った。
「事件の後、娘が住んでいたマンションの管理人に話を聞いた。」
「マンション一階のオートロックドアの前に男がいて、娘の部屋のインターフォンを鳴らしたらしい。」
「娘はロックを解除しなかったが、その男は不意に消えたそうだ。」
「その後中西は娘の部屋に侵入している。」
高橋は頷いて言った。「つまり消えている間は建物はすり抜ける事ができる。」
「あぁ、そうだ。」
「だからやつは何処にでも潜伏出来るし、誰でも不意をついて殺せる。」
「これだけの能力だ、奴は自分の能力に絶大な信頼を寄せている、自信がある。」
「もしかしたら奴の過信が隙を生むかもしれない。」
高橋は頷く。
今井は一つ気になる事があった。今回はこれを高橋に伝えておきたかった。きっとコレが中西を追い詰めるカギになる気がしていた。
「中西は初めて本当の感情を出したんだ。」
「消える前に、自分の服からほつれた糸がスタンドに引っかかっているのに気が付いて、焦って振り払った。」
「わざわざそれから消えたんだ。」
「つまり、ほつれた糸と電気スタンドが繋がっていたため、能力を発動出来なかった・・。」高橋が言った。
「お前は捜査一課に向いているよ」今井が微笑んだ。
高橋はお礼を述べ、部屋から出ようとしたとき、今井に呼び止められた。
「今も娘の顔を思い出すんだ。あの悲痛な声も・・。」今井の顔は涙と鼻水でグシャグシャだった。
「俺は弱くて中西から、娘の死から逃げた。」「だが、やはりこのままでは・・。」今井は口籠った。「高橋、死ぬなよ・・。」
高橋は自分の娘の葬式に出たとき、虚しい気持ちで暫くぼんやり抜け殻のように過ごしていたことがある。今井の場合は、ずっと一緒に過ごしてきた娘だし、目の前で殺害されている。その精神的なダメージは計り知れない。それでも中西逮捕のため、2年間の葛藤を乗り越え、情報提供してくれたのだ。
「今井さん、あなたの方が捜査一課に向いてますよ。」高橋は自然と敬礼をした。
今井は郊外に身を潜めていたが、娘の処にいでも会いに行けるようにか、例の事件現場からはそれ程遠くには居なかった。
高橋は2階建てのアパートで足を止めた。「あれから2年か。」「今井さんの傷は癒えてはいないだろう。」ただ高橋は今井が会うことを承諾してくれたため、少し心境の変化があったのだろうと思った。
高橋は2階に上がり、1番右端のドアの前に立った。インターフォンを押そうとしたとき、ガチャッとドアが開いた。
ドアから今井さんの顔が覗いて見えた。やはり顔はやつれていたが、目は何処となく力を取り戻していたようにも見えた。
「来たか、高橋。」今井は少し微笑んだ。
「ご無沙汰しております。」高橋は挨拶をして、部屋に通して貰った。
「来ると思ってたよ。」「中西の件だろ。」
今井の方から本題を切り出してくれた。
高橋はこの前の中西の殺人未遂のことについて今井に細かく説明した。今井は俯いて聞いていたが、時折深く頷く様子もあった。
「前に中西が普通じゃないって今井さんが言ってたのはこのことですか?」高橋が今井を覗き込む。
「それもある。」「消えるというのはおかしいよな。」
今井と高橋は中西が消えるところを互いに経験している。今井は続けた。
「中西が普通じゃないのは、その精神だ。」「殺人も食事も排泄も奴にとっては一緒さ。」「奴の精神は既に凍りついている。」
高橋は頷く。
「先ず中西の能力に関してですが、信じられないことに奴は消える能力があります。」「だがこれは瞬間移動ではないし、限界もあるようです。」
「どういう事だ?」今井は高橋をまじまじと見た。
「中西が現場から消えて、10分後くらいに近くのコンビニに現れています。」
「現場の部屋からそのコンビニまで、歩いて丁度10分です。」
「つまり瞬間移動ではなく、中西はそこまで歩いている。」
高橋は続けた。
「そしてずっと消えることが出来ないため、移動先の防犯カメラなどに映り込んでしまう。恐らく一度に消えていられるのは最高10分前後。」
「俺も幾つか気が付いた事がある。」今井が言った。
「事件の後、娘が住んでいたマンションの管理人に話を聞いた。」
「マンション一階のオートロックドアの前に男がいて、娘の部屋のインターフォンを鳴らしたらしい。」
「娘はロックを解除しなかったが、その男は不意に消えたそうだ。」
「その後中西は娘の部屋に侵入している。」
高橋は頷いて言った。「つまり消えている間は建物はすり抜ける事ができる。」
「あぁ、そうだ。」
「だからやつは何処にでも潜伏出来るし、誰でも不意をついて殺せる。」
「これだけの能力だ、奴は自分の能力に絶大な信頼を寄せている、自信がある。」
「もしかしたら奴の過信が隙を生むかもしれない。」
高橋は頷く。
今井は一つ気になる事があった。今回はこれを高橋に伝えておきたかった。きっとコレが中西を追い詰めるカギになる気がしていた。
「中西は初めて本当の感情を出したんだ。」
「消える前に、自分の服からほつれた糸がスタンドに引っかかっているのに気が付いて、焦って振り払った。」
「わざわざそれから消えたんだ。」
「つまり、ほつれた糸と電気スタンドが繋がっていたため、能力を発動出来なかった・・。」高橋が言った。
「お前は捜査一課に向いているよ」今井が微笑んだ。
高橋はお礼を述べ、部屋から出ようとしたとき、今井に呼び止められた。
「今も娘の顔を思い出すんだ。あの悲痛な声も・・。」今井の顔は涙と鼻水でグシャグシャだった。
「俺は弱くて中西から、娘の死から逃げた。」「だが、やはりこのままでは・・。」今井は口籠った。「高橋、死ぬなよ・・。」
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「今井さん、あなたの方が捜査一課に向いてますよ。」高橋は自然と敬礼をした。
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