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しおりを挟む領地で結婚式も済ませた今、ベルーナは新婚生活を楽しんでいる。
そして、もちろん病弱ではないベルーナは、その後、子供を2人産んだ。
侯爵がウィルダムに爵位を譲ったのは結婚してから15年後のこと。
その前の年に王太子ラミレスは国王陛下になっている。
つまり、ウィルダムが侯爵になったという報告をラミレスにしなければならなかった。
港町のある侯爵領は、隣国と隣接している辺境同様に王都にはほとんど出ていかない。
なので、ウィルダムの顔を知っている者もその妻がベルーナだということも限られた者にしか知られていなかった。
侯爵夫妻として両国王陛下に挨拶したウィルダムとベルーナ。
夫人がベルーナだと気づいたラミレスは、驚きのあまり口をパクパクとさせたまま言葉が出なかった。
なんとか頷いて謁見を終了させた後、話がしたいと応接室に呼び出してもらった。
もちろん、それぞれの配偶者も同伴である。
「ベルーナ嬢、いや、夫人か。元気……そうだな。」
「はい。両陛下もお元気で仲睦まじいことは侯爵領まで届いておりましたわ。」
嬉しそうにニコニコと笑顔で答えるベルーナにラミレスはなんとも言えない気持ちになる。
パンジーとベルーナも再会を喜んでいた。
「病気は……大丈夫なのか?」
「はい。元々、コレといった病名はなかったのです。
ですが、おそらく血の巡りが悪かったせいではないかと言われております。
港町で残り少ない余生を送るつもりで、思い残すことなく夫と過ごそうと思っていたのですが……
そこで毎日のように食べるモノが良かったのか、体調はみるみるうちに回復いたしました。」
「へ……?血?血の巡り?いったい何を食べたんだ?」
「生のお魚、刺身、というものです。その中でもマグロというものがいいようで。」
ここにあればすぐにでも食べたいといった様子で、ベルーナは頬を緩ませる。
ただ単に、マグロが一番の好物というだけで本当に効果があるのかはわからないけれど。
ベルーナの体調不良の一因が刺身が食べられないということに変わりはなかったのだから。
早く港町に戻りたくて、イライラ度が増すという体調不良だったが。
そういえば10歳の時に訪れた港町で、生の魚を出されたことがあったとラミレスは思い出した。
どうしても食べることに躊躇してしまい、結局残してしまったが……
そうか。アレがベルーナの回復に役立ったのか。
「ですので、王都に長居はできないのです。
また体調を崩すことになってしまえば、夫にも子供たちにも心配させてしまうので。」
「そ、そうか。子供も産めるほどに回復していたんだな。
コホン。あー。……君には昔ひどいことを言ってしまった。
『何もしなくていい』なんて、君が言った通り人形みたいだよな。
あんな不誠実なことを考えていた自分が情けないよ。
誰も幸せになんてなれない提案だったよな。
今更だけど、申し訳なかった。6年も候補に縛り付けたことも。
独りよがりの初恋だったけど、いろいろ気づかせてくれてありがとう。」
「いえ。陛下とパンジー様はお似合いですわ。
これが正しくあるべき形だと陛下もお気づきでしょう。
これからも陛下の治世が安寧であることを港町よりお支え致します。」
その夜、ラミレスはパンジーに聞いてみた。
「血の巡り、かぁ。……あれって本当のことだと思う?……そもそも病弱だったのか?」
「……どうでしょうね?」
そう言ってクスクス笑うパンジーを見て、本当でも嘘でも今更だと笑った。
初恋の君が元気であればいい。そんな風に思えるのはパンジーとの15年があるからだった。
「でも、侯爵様があの時の従者の方だったことには驚きましたね。」
「………は?従者が…侯爵?」
「ええ。」
「いつも彼女をヒョイっと抱いて歩いてた?」
「ええ。」
「……はは。顔を全く覚えてなかったよ。……ずっと側にいたんだな。」
今でも彼女を軽々と抱いて歩いていそうだと笑いがこみ上げたラミレスだった。
港町に帰ったベルーナは今日も美味しそうに刺身を食べる。
そんなベルーナを愛おしそうに眺めるウィルダム。
これがこの国の安寧の結果なのだから。
<終わり>
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