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しおりを挟む久しぶりの夜会は大勢の人々への挨拶回りが中心だったわ。
結婚式以降、人前に揃って顔を出したことがない私たちに驚く人もいたわ。
いろいろ噂されていたものね。
お義父様とお義母様は私たちのことを聞かれて毎回大変だったのではないかと気づいたの。
ご迷惑をおかけしていたでしょうね。まぁ、旦那様のせいですけど?
一回りしたところで飲み物を、と思っていると旦那様のところに3人のご令嬢が来られたわ。
「まぁ!騎士様。あ、パドレ伯爵令息様ですわね。お会いしたかったのです。私のこと、覚えていらっしゃいます?街で何度か助けていただきました。挨拶も返してくださっていましたのに、ひどいですわ。お見掛けしないと思ったら何も言わずに騎士をお辞めになっていらしただなんて。それに伯爵家の跡継ぎの方だと秘密にされるなんて。」
「そうですわ。騎士の方にまさか跡継ぎの方がいらっしゃるとは、それも巡回騎士をされていらっしゃるとは思いもしませんでした。泣く泣く憧れるだけに留めておりましたのに。お願いですわ。ダンスに誘っていただけませんか?私のことを知っていただきたいのです。」
「ええ。私もダンスをお願いしますわ。得意ですのよ?失礼ですが、初めてお見掛けするお隣の方は傷物で踊れないと耳にしましたわ。私の方が若いし何かとお手伝いできますし役に立ちましてよ?」
3人の令嬢が代わる代わる旦那様に話しかけるので驚いてしまったわ。まだ若いわ。学園の生徒じゃないかしら。
旦那様が騎士をしている時に街でお会いしたのね。
それはわかるけど、ちょこちょこっと失礼な言い方をしているわよ?旦那様にも、私にも。
「申し訳ないが、街では多くの人と接していたのでご令嬢方の記憶は残っていません。それに騎士が貴族家の跡継ぎだろうがそうでなかろうが任務に支障もないし、騎士を辞めることを関係のない方に触れ回る必要もありません。
そして、妻がいるのにあなた方を知ってどうするのです?僕は離婚する気はないし令嬢と遊ぶ気もない。
踊れないから?それが何だ?踊ることは礼儀を正すことよりも重要だろうか?あなた方は誰一人名乗っていないし、挨拶をしてもいない。妻を無視し、妻の目の前で色目を使う。僕は愛人が欲しいとも思っていないので、今後は話しかけないでもらいたい。失礼する。」
旦那様は3人の令嬢にそう告げて、私を連れて歩き始めたわ。
「リア、不快な思いをさせてすまない。」
「あれくらい平気ですわ。ですが、大丈夫でしょうか?私もどちらのご令嬢か存じませんが、格上のご令嬢だと面倒なことにならないでしょうか。」
「大丈夫だよ。名乗り合っていないのだからね。それに彼女たちはいつも侍女もつけずに街にいたから子爵か男爵令嬢だと思うよ。3人揃って婚約者がいないようだから侍女かメイドとして働きたくなくて愛人狙いなんじゃないか?」
「そうなのね。ところで旦那様、ご令嬢たちを覚えておられたのね。」
「ああ。騎士の巡回を邪魔をする令嬢たちで有名だからね。巡回騎士を通じて王城勤務の騎士や文官を紹介してもらおうと声をかけてくるんだ。わざと困ったフリをしたりしてね。」
「……勉強して王城で働く女官になった方が出会いがあるのではないかしら?」
「その頭も礼儀作法も足りないのだと騎士団では言われているよ。」
あら。若い令嬢にチヤホヤされて喜ぶ騎士様方を想像していたけれど、ちゃんと見定めてるわ。
ご令嬢たちの狙いがあからさますぎて、要注意人物扱いなのね。
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