夫の子ではないけれど、夫の子として育てます。

しゃーりん

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翌朝、フォルティアの専属侍女レニが部屋にやってきた。彼女は実家から連れて来た侍女である。


「おはようございます。……フォルティア様、初夜は後日でしょうか?」


レニは瞬時に察したようだった。フォルティアは自分の部屋で寝ていたのだ。

結婚前まではフォルティアのことをお嬢様と呼んでいたが、呼び名に困り、名前にしたのだろう。
本来であれば『若奥様』か『フォルティア奥様』と呼ばれることになるが、初夜がまだと判断したのだ。
侍女から名前で呼ばれることを好む夫人も多いことから、おかしなことでもない。

 
「おはよう、レニ。後日、でもないわ。多分。」


結婚式の疲れや、酒の飲み過ぎ、あるいはお互いがもっと親しくなってから、と初夜を延期し、後日となる場合もあるのでレニもそのどれかだと思ったのだろう。だけど、これは違う。


「ディカルド様は、前の婚約者の方だけを愛し続けたいそうよ。私を抱く気はないのですって。」


レニはとても驚いた顔をしていた。それはそうだろう。彼女もこの結婚の意味を知っている。


「それではコールタッド伯爵家が援助する意味が全くなくなってしまうのではないですか。」


いずれフォルティアが産む孫のために、父はラフォーレ侯爵家に援助しているのだからそうだろう。


「だからね、白い結婚を証明して2年後に実家に戻るわ。」


父はフォルティアにもっと条件のいい結婚相手を選ぶこともできた。
だけど、このままラフォーレ侯爵家が落ちぶれていくことを危ぶんだ国王陛下の頼みでディカルドとの結婚が決まったのだ。
このことは、おそらく侯爵夫妻は知らないことだろう。

自分たちが格上の侯爵家であるため、コールタッド伯爵家は断れなかったのだ。そう思っている。

しかも、フォルティアは少し前に婚約を解消したばかりだったため、傷物を受け入れてやるんだから援助しろと言わんばかりの婚約申し込みだったという。

その認識が間違っていることに気づいていない。

いつまでも婚約者が亡くなったことで悲嘆に暮れてばかりいるディカルドにフォルティアをわざわざ選んでやったのだ。
次期侯爵夫人になれることはフォルティアもさぞかし嬉しいことだろう。

そう思っているが、コールタッド伯爵は格上からでも平気で断っただろう。
吹けば今にも飛びそうな侯爵家なのだ。格上とは言い難い。
 


しかし、侯爵夫妻の思惑通りにはいかなかった。

確かにディカルドは無理やり婚約させられたとはいえ、フォルティアを邪険に扱うことはしなかった。
結婚に向けて前向きになったと思ったことだろう。

このままフォルティアが妊娠すれば、伯爵家からの援助も長く続くことになる。
ディカルドは、侯爵位を継ぐまで援助のことは知らないままになるかもしれないが、それでいい。

侯爵家が伯爵家に頼らないといけないほど厳しい状況にあることなど知られたくないのだ。

援助は金銭的なものだけじゃない。人材もである。
領地にはすでに伯爵に頼まれた者たちが立て直しを図っているのだ。 

そのこともディカルドは知らない。


何も知らないディカルドが、初夜でフォルティアを抱く気はないと言ったなどと、侯爵夫妻には思いもよらぬことだったのだ。
 

 
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