夫の子ではないけれど、夫の子として育てます。

しゃーりん

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翌日、妙に機嫌のいい侯爵夫妻と、どこか困惑したようなディカルドが対照的で笑ってしまいそうになった。


朝、フォルティアの部屋にやってきた使用人はレニが戻っていたことに驚き、すでにベッドメイクも終わっているシーツを見て何か聞きたそうにしていたが、結局何も言わないまま部屋から出て行った。
 

「あの使用人、侯爵夫妻に私の使用済みのシーツを持ってくるように言われてたのね。」
 
「脅しのネタにでもするつもりだったのでしょうか。」

「おそらく、ね。だけどあの人たちは何もわかっていないわ。シーツに名前はないのよ?」


同じようなシーツは作ろうと思えば作れる。
昨夜、レニがフォルティアを見た状況でなければシーツの汚れに何の意味も持たないのだ。


シーツが手に入らなくても、侯爵夫妻はフォルティアが純潔ではないと知っているだけでご機嫌なのだ。
フォルティアが離婚を言い出しても不貞を理由に多額の慰謝料を手にできるし、しかもフォルティアの評判を下げて自分の息子の評判を上げる。

その程度の思惑で、フォルティアを穢したのだ。

フォルティアはこのまま離婚しても侯爵夫妻が慰謝料を手にすることはないと思っている。
計画が杜撰すぎて、侯爵夫妻の罪が明らかにされるだろう。

嫁の部屋に侵入を許す警備の異常。
夜勤の使用人の有無。
かけたはずの鍵が開けられていた、マスターキーの管理責任。
逃げた男がディカルドの部屋を通っても捕まらないと知っていた理由。 
侍女のレニをフォルティアから離した手紙。

全てが侯爵家の過失に繋がる。
 
だが、敢えてフォルティアはまだ離婚を選ばない。

卑劣な侯爵夫妻を叩きのめさないと気が済まないと思った。
 



レニがコールタッド伯爵家に行ったことでフォルティアに何かあったのだと悟ったのだろう。
兄がラフォーレ侯爵家を訪れた。 


「やあ、フォルティア。新婚生活は順調か?」

「どうでしょうか。勝手が違うと次々と思いもよらぬことに行き当たってしまって。
見通しが甘かったようですわ。里帰りをして母に教えを請おうかと思っていたのですが、そういうわけにもいかなくなってしまって。」

「……そうか。侯爵家と伯爵家では女主人の権限も違ってくるだろうからな。それぞれの家のやり方もある。まだ結婚したばかりなのだから、徐々に学べばいい。」


フォルティアは、侯爵家は想像よりもとんでもないことをやらかす者たちだと言った。
離婚あるいは白い結婚で伯爵家に戻るつもりが、状況が変わってしまったのだと。

フォルティアの言葉を聞いて離婚を選ばないことを兄は悟り、居座って乗っ取ればいいと言ったのだ。


「そうですね。ところでお兄様、領地に派遣している者をこちらに回すことは可能でしょうか?」

「ああ、おそらく。なんだ?ここの事務官にも問題が?」

「領地からの資料をこちらで取り纏めて提出や計算をしているようですが、いい加減なようです。
ディカルド様もその状態で教えられているようで、意味がないように思います。」

「わかった。早々に派遣しよう。」

 
届かない手紙を書き続けるよりも、屋敷内に伯爵家の者を入れる方が実家にも状況が伝わるのは早い。

使用人の派遣費用は伯爵家持ちなのだ。
自分が楽になるのであれば侯爵は喜んで受け入れるはずだから。
 
まさか手紙が届かないとは予想もしなかったことで屋敷内に人が入ることが遅くなってしまった。

ここまで非常識な人たちだとは思っていなかった自分の過信が招いた結果があの夜なのだろう。 

 
そして後日、兄の手配で派遣されてきた者の中に見知った者がいたことに気づいたけれど、声をかけることはできなかった。  




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