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しおりを挟むベッドに両手を括りつけられて明らかに襲われた後のフォルティアを見て、レニは驚いて駆け寄ってきた。
「お嬢様っ!」
「レニ、大きな声を上げないで。廊下の扉は閉まってる?鍵をかけてきて。」
レニは括りつけられた手を解こうしたが、先にそちらをすべきだと扉に向かった。
そして夫婦の寝室の扉にも鍵をかけた。
両手を解いた後、フォルティアの体を拭いながらレニは聞いた。
「お嬢様、フォルティア様、あの男は誰でしたか?」
「……ディカルド様でないことは確かね。」
寝室の明かりは落とされたため、顔ははっきりと見えなかった。
男が逃げるときに隣の部屋の明かりで後ろ姿が見えただけだ。レニもはっきり見えなかったのだろう。
「隣の部屋から逃げて行きましたね。ディカルド様も共犯ですか?」
「……違うと思うわ。彼は部屋にいるのかしら。一緒に見に行ってくれる?」
ディカルドの部屋に入ったことはなかったが、男が扉を開けっ放しにしていたことで覗くことができた。
「いるとしたらベッドよね?」
「侵入者が通り過ぎても気づかないって大丈夫なんでしょうか。」
彼はいないかもしれない。そう思ったが、自分のベッドで眠っていた。
しかも、フォルティアが扉を開けても気づかないほど。
「ディカルド様、おそらく眠り薬を盛られているわ。騒ぎに気づかれないようにされたのよ。」
フォルティアはレニに手伝ってもらい、ディカルドにちょっとした細工を施した。
彼は目を覚ませば、混乱することだろう。
自分の部屋に戻ったフォルティアとレニは、こうなった経緯を話し合った。
「これは侯爵夫妻の企みだわ。息子がいつまで経っても初夜を済まさないことで、私がいつ実家に帰るかビクビクしていたのでしょう。純潔でなくなれば白い結婚の証明もとれない。離婚裁判を起こしても不貞をした嫁としてこっちが不利になる。援助のために私をここに留める手段を取ったのだわ。」
「なんて卑劣なことを!明日朝すぐに避妊薬を買ってまいります。……時期が悪いですから。」
「……要らないわ。もし妊娠したら、それが私の運命だと思うわ。それに、小細工もしたし。」
純潔を失ってしまったことを嘆き悲しんだところでどうしようもない。
貴族令嬢は親に従い結婚するだけ。
愛のない初夜も覚悟の上であったため、顔も見えなかったあの男に穢されたくらいで泣き寝入りするような性格ではないのだ。
「お嬢様……」
レニは動揺し過ぎて、結婚前の呼び名に戻ってしまっている。
「レニはどうして戻ってきたの?」
「……馬車は、街の馬車乗り場で降ろしてくれましたが、貸馬車が一つも残っていませんでした。
コールタッド伯爵家から領地に向かう馬車が早朝に出ることを思い出して、乗せてもらおうと思って向かったのです。ですが、向かいながらどうして手紙は伯爵家から届かなかったのかと疑問に思いました。」
使用人に渡された手紙は封にも入っていなかった。
それに、レニの母親のことは王都の伯爵家の使用人も知っているため、手紙を届けたのであればそのまま馬車で待っていて領地まで送ってくれてもおかしくない。
そして、伯爵領の屋敷からの手紙が王都の伯爵家を経由せずに侯爵家に届いたことが変なのだ。
「王都の伯爵家の者たちは誰も母の危篤を知りませんでした。それどころか、昨日領地から来た者が母は元気だったと言ったのです。嫌な予感がして戻ってきましたが……間に合わず申し訳ございません。」
「あなたのせいじゃないわ。わざとあなたを私から離してまでここまでする侯爵家が異常なのよ。」
2年後に白い結婚の証明をして離婚することはできなくなったが、逆に時間は大いにあると言える。
では今後はどうしようか。
やられっぱなしでは気が済まない。
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