夫の子ではないけれど、夫の子として育てます。

しゃーりん

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ある日の午後、フォルティアにお茶を運んできた侍女レニが屋敷で少し騒ぎがあったと言った。


「玄関口で床に頭を擦り付けて侯爵様に金銭をお願いしていた男性がいたのです。」

「貴族、ではないのよね?でも平民が屋敷に来て侯爵様にお願いを?」

「他の使用人によると縁を切られている親戚のようです。平民の女性と結婚したようで。」
 
「縁を切られているのなら、婚約者がいたのかもしれないわね。親戚について詳しく聞いたことがないから誰のことかはわからないわ。私が嫁いだことで貸してくれると思って来たのかしら。」


侯爵夫妻の兄弟がどこの貴族と縁を結んでいるかまでは覚えているけれど、その子供たちや更に親世代の親戚のことまで全員を把握しきれていない。
結婚式でも挨拶くらいしかしなかったのだから。

だけど、コールタッド伯爵家から嫁いだことを耳にすれば、お金を貸して貰えると思ったのかもしれない。


「どうやらお子さんが病気で薬が高いとか言っていましたね。」

「それはお気の毒なことね。侯爵様はお渡ししたのかしら。」

「どうでしょうね?あちこちの親戚の家を回っているのかもしれませんね。」


たとえ縁を切られていても子供のために頭を下げて回っているのだと思うと心が痛む。
だけど、詳しい事情も知らないフォルティアが貸したかどうかを聞けるはずもない。
正直、あの侯爵夫妻が貸すとも思えないが。
 
もう屋敷にはいないだろうし、どこの誰かを聞いたところで探し出してまで関わるべきではない。
誰か特定の者にだけ薬代を援助しては平民の中でも調和が乱れると聞く。
病気の平民全員を助ける気がないのであれば、安易に手を出してはいけないのだ。

やるせない気持ちでその後を過ごした。
 
平民の男はどうやら侯爵の姉の次男。つまり甥だということだった。




その夜、入浴を済ませて寝る準備をしていると、部屋の扉がノックされて使用人が入ってきた。


「あの、レニさんに急な知らせがっ!お母さんが危篤だと届きました。馬車乗り場まで侯爵家の馬車を使っていいそうです。」


使用人が持っていた手紙を渡してもらうと、確かにそう書いてある。
 

「レニ、すぐに向かいなさい。これを持って行って。」


フォルティアは手元にある金をレニに渡した。貸馬車に必要だろうから。


「お嬢様……ありがとうございます。」


レニはすぐさま部屋を出て行った。
レニの母親はコールタッド伯爵領の屋敷で働いている。明日の夜には着くはず。

フォルティアの結婚式に来てくれた時は元気そうだったのに……

回復を祈りながら、フォルティアはベッドに入った。




ようやく少し浅い眠りが訪れた頃、フォルティアは部屋の中に誰かの気配を感じた。
目を開けた時には寝室の明かりが落とされ、起き上がろうとした体を押さえつけられた。


「叫べば殺すぞ!」


そう脅した男はフォルティアの両手をベッドの柱に括り付けた。

目的は純潔を奪うことだけだから殺しはしない。

そう言った男に襲われた。




しばらく経った後、フォルティアの部屋の扉がノックされてから開いた。

男は慌てたようにフォルティアの上から退き、寝室から出て行った。


「誰っ?!」


入ってきた者が男の姿を見たのだろう。男はフォルティアの部屋の出口ではなく夫婦の寝室から夫ディカルドの部屋の方へと向かったようだった。

入ってきた者は男を追わず、フォルティアのベッドの方へとやってきた。


「お嬢様っ!」
 

やってきたのは、領地へと向かったはずのレニだった。



 

 
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