夫の子ではないけれど、夫の子として育てます。

しゃーりん

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それからわずかひと月後、ディカルドが亡くなった。馬車道に飛び出して馬車に撥ねられたのだ。 

突然のことだった。


フォルティアの妊娠を知ってから、ディカルドは明るくなった。
亡き婚約者リーリエしか愛さないからとフォルティアにはあまり関わりを持っていなかった以前とは違い、よく話しかけてくるようになっていたのだ。 

フォルティアはディカルドが子供のことを知ると、リーリエを裏切ってしまったと嘆き悲しんだ暮らしに逆戻りするのではないかと思っていたが、子供に関しては嬉しかったようなのだ。

『子供のことは愛せる気がする』

そう言ったディカルドはフォルティアに対して失礼だったと思ったのか、焦ったように言った。

『君のことも子供の母親として大切にする』
 
あくまでも愛する女性はリーリエだけだと言うディカルドに対して、フォルティアは特に何も期待してはいないが自分が子供の父親だと信じているディカルドは侯爵夫妻よりも扱いやすいと思っていた。

そんな矢先の、ディカルドの死は驚いた。



調査によると、ディカルドは何かに追われているかのように馬車道に飛び出したという。
しかし、ディカルドが走っているところを見ていた者たちによると、誰も彼のことを追いかけてはいなかったらしい。
結局、ディカルドの前方不注意事故として処理された。



フォルティアも事故なのかと思っていたが、兄から経緯を聞いて驚いた。

ディカルドはフォルティアを襲った男に脅されていたのだという。

兄が指示してあの男、カールを見張らせていたが、あの男は結局子供を病気で失ったらしい。
その後は嘆いてばかりの奥さんを放って女遊びに走ったが金がない。
カールは侯爵を脅そうと思い屋敷に近づいたが、フォルティアが妊娠したことを知った。
子供が自分の子なのではないかと思ったカールは、侯爵ではなくディカルドを人気のない場所に呼び出し、経緯を話して脅したという。
 

『叔父さんに金を借りに行ったらさ、嫁を穢して純潔を奪ってくれって頼まれたんだ。』

『……は?』

『お前、嫁を抱いていなかったんだろう?嫁に逃げられたら援助してもらえなくなるからって頼まれて襲ったんだ。初めはめちゃくちゃ抵抗していたけどな、入れてからは大人しくなった。締まり具合が最高でさ、何度も中にぶちまけてやった。ひょっとしてお前もあれから抱いた?嫁は純潔じゃなかっただろ?あぁ、気づかなかったか?』

『ちょっと待ってくれ。父に頼まれて……?フォルティアを?』

『そうだよ。子供は俺の子?お前の子?まぁ、どっちにしろ叔父さんがやったことは最低だよな。
そんなこと、社交界にバラされたくないだろ?金、くれよ。』


ディカルドは呆然としながら手持ちの金や装飾品を渡したという。


『また貰いに行くからな。金を用意しておけよ。嫁でもいいぞ?はははっ。』


そう言ったカールを、ディカルドは突き飛ばしたらしい。
そして運悪く後ろの岩に激突して、カールは即死した。
 
死んだカールに驚いて、ディカルドは死体から逃げるように走り、馬車道に飛び出した。

これがディカルドの死の一部始終らしい。

カールの死体はやり取りを見張っていた伯爵家の者が一旦隠してから通報した。 


ディカルドは何を思いながら走っていたのだろうか。
子供がカールの子だと思った?それとも自分の子だと信じていた?
人を殺してしまったことで自分も死のうと思って馬車道に飛び出した?

それとも、リーリエに会いたくて?


カールは自業自得だが、ディカルドは少し不憫な死に方だと思った。

 

 
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