夫の子ではないけれど、夫の子として育てます。

しゃーりん

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結婚1年足らず、妊娠6か月のフォルティアは未亡人になった。

妊娠していなければ実家に戻ることになっただろう。
だが、葬儀に出席した貴族たちはフォルティアのお腹の子がディカルドの子だと思っているため、憔悴した侯爵夫妻にも『孫のために、孫を生き甲斐にして気を落とさないように』と声をかけていた。 

しかし、その言葉で余計に侯爵夫人は不安定になってしまったのだ。 


 

「フォルティア、正直に話して。お腹の子供は誰の子なの?」


葬儀が終わった後、侯爵夫人はフォルティアの腕を両手で掴み、鬼気迫る顔でそう聞いてきた。


「……ディカルド様の子供だと認めていただけたのではなかったのですか?ディカルド様は私と関係を持ったことを認めていたではありませんか。」


カールに穢された夜、ディカルドにした小細工。
それは、記憶はないが誰かを抱いたかもしれないと思わせるもの。
ディカルドの下半身を脱がせたり、フォルティアの中から出たカールの子種を拭ったタオルを置いたり。
少しばかりの破瓜の血とカールの子種のついたフォルティアのベッドシーツとディカルドのシーツを入れ替えるのは大変だったが、ディカルドの体を押しても起きなかったのは幸いだった。

朝、目覚めたディカルドは案の定、困惑していたのだから。


「嘘よっ!私にはわかるわ。このお腹の子は息子の子じゃないわ!あのカールの子よっ!出て行きなさい!」


侯爵夫人がフォルティアを殴りかかろうと手を振りかざしたため、侯爵が慌てて引き離した。
フォルティアのことも侍女のレニが守りに入っていた。

侯爵夫人は侯爵の腕の中でまだ暴れていた。 


「失礼ですが、私がそのカールという男に穢されたという証拠は?
不貞を疑われて少し調べましたが、その方はお金が必要で借りに来られたのですよね?私を穢すことがお金を貸す対価だったようですが、その方は何を証拠に出されたのでしょうか。」


侯爵夫人の動きが止まった。


「何、何って……あなた、何かあったかしら?カールがフォルティアを抱いてきたって言っただけ?」

「そう、だ。アイツがヘラヘラした顔で『純潔は締まりがよくて最高だった』って言ったから信じて金を渡してしまった。」 
 
「まさか、カールの嘘だったの?」

「っそんな……いや、カールに確認する。フォルティア、カールに聞いてもいいんだな?」


カールが死んだことを知らない侯爵は、カールとフォルティアのどちらが嘘をついているのか確かめる気だ。
カール本人を連れてきて、フォルティアの反応を見ようと思ったのかもしれない。
どちらの言い分が正しいか、誰がどう判断するつもりなのかわからないけれど。

だが、死人はもう本当のことも話せないし、嘘もつけないのだ。


「構いませんよ。どうぞ。」


侯爵夫妻は、カールにフォルティアを襲う指示をしたと認めていることに気付いていないようだった。


 
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