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しおりを挟むある日の午後、サンルームでアロイス様とお茶を飲んでいると大柄な人が入ってきた。
「じー様、具合はいかがですか?」
「カーティスか。ボチボチだな。
ミーシャ、孫のカーティスだ。会うのは初めてだろう?騎士をしている。」
あぁ、騎士様だから体が立派なのね。
「初めまして。ミーシャです。よろしくお願いします。」
「ああ。カーティスだ。じー様をよろしく頼む。」
顔は一瞬だけこっちを見たけれど、あまり見たくないのか視線は合わない。
メガネのせいかな。
やっぱり元家族みたいにみすぼらしいから視界に入れたくないって人もいるものね。
「ミーシャ、こいつの態度は気にしなくていい。
女性に優しく振る舞うと、勘違いした令嬢たちに言い寄られるらしくてね。
あまり視線を合わさないことにしたようなんだ。
この態度はミーシャだからではないよ。」
「そうでしたか。わかりました。気にしません。
あの、カーティス様のように体格の良くて優しい騎士様が令嬢たちの好みに合うということですか?」
「………」
「……カーティス、誤解するな。ミーシャはお前を貶したわけじゃない。
ただ単に令嬢というのは騎士に言い寄る者が多いのかと疑問に思っただけだ。そうだろう?」
「え?そうですけど、貶すようなつもりはなくて……あれ?」
「……捉え方によると、騎士なんかのどこがいいんだ?自分の好みじゃないって聞こえる。」
「そうそう。ミーシャの好みは貧弱で優しくない男だから自惚れるなってね。」
ええ??貴族って裏を読みすぎじゃない?難しいわ。
「すいません。そんなつもりではなくて。
あまり人と接して来なかったので世間に疎いと言いますか、騎士様って人気なのかな?って。」
「騎士は昔から人気のある仕事だよ。強くてカッコいい感じがするからね。
憧れる令嬢も多くてね。でも離婚も多いかな。
それもあってカーティスは独身主義なんだろう?」
「そうですね。結婚生活の破綻を何組も見てきましたからね。」
「どうして離婚が多いのですか?」
「不規則な勤務だし、遊びの誘いも多いんだ。体力があるし、精力も強い者が多いから。
妻だけで満足できない者は娼館で発散する者も多い。それは認めている妻もいる。
しかし、それが身近な令嬢相手となったら、不貞になってしまう。で、離婚だ。
騎士たちは先輩たちの失敗を見ているのに同じ過ちを繰り返す。」
なるほど。令嬢の中には憧れで結婚する令嬢と浮気で奪い取ろうとする令嬢がいるってことね。
奪い取れたとしても、自分が奪い取られる立場になるって思わないのかしら?
浮気する男は、また同じことをしそうだけれど。
「反面、愛妻家も多いな。
妻の前と他との落差で見込みがないとわかれば令嬢は近寄らない。」
愛妻家の先輩に倣った方が、問題を起こす原因の令嬢が減っていいのに。
それがうまくいかないのも昔からの引き継ぎなんだろうね。
男女のアレコレを最近学んだミーシャには、精力だの娼館だの浮気だの、刺激の強い言葉が多かった。
だけど、侯爵夫人とフレイア様が教えて下さったお陰で、『娼館』がわからなかった前みたいにアロイス様に説明してもらう必要もない。
というか、説明する方もされる方も恥ずかしすぎるものね。
首を傾げて意味がわからないと言わない私に、アロイス様も内心ホッとしているだろう。
孫の前で説明したくないだろうからね。
私も自分の無知さを晒さずに済んだ。
ひょっとして、アロイス様が夫人方にそういう方面の教育をするようにお願いしてくれたのかな?
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