分厚いメガネを外した令嬢は美人?

しゃーりん

文字の大きさ
29 / 44

29.

 
 
ミーシャだけでなく、犯罪に関わる機会がない者には知らない者が多い。
カーティス様はそう言った上で説明してくれた。


「医学や薬学という分野は、被験者が必要だろう?
 誰にどんな反応が出るかはわからないし、量が多いか少ないかもわからない。
 今ある薬というのは、昔から研究を重ねて安全性がほとんど確保されたものだ。
 だけど、目の薬のように新薬というものは必ず開発される。
 成分的には大丈夫だと思っていても、万が一失明したらと思うと怖いだろう?
 そこで、被験者の前に試されるのが犯罪者だ。

 犯罪者の中でも終身刑や死刑が決まっている者。
 体を動かせる者は鉱山で働いたりするが、怪我をしている者や働く体力がない者。老人や女性。
 そういった者が新薬の被験者になるんだ。
 悪いことをして犯罪者になった者に世の中に役立つ貢献をしてもらう。
 牢の中にいる間も彼らには食事が与えられる。それは国の金だ。
 その対価として与えられる仕事だと思えばいい。

 もちろん、新薬は薬師が自信をもって研究したものばかりだから、大きな害にはならない。
 だけど、目の薬はおそらく片目だけで試すだろう。片目があれば身の回りのことはできるからな。
 そこで失明したり、何か症状が出れば研究し直す必要が出てくるだろう。」


ミーシャは驚いたが、納得した。
今ある薬は全部、誰かが試した上で効能が認められているのだ。
そんな当たり前のことを考えたことがなかった。

自分が作った目の薬の被験者で悩んでいたのに………

万が一のことを考えて、犠牲になるのなら死刑が決まっている犯罪者ということか。
亡くなったとしても、死刑が執行されただけということになる。
そうして医学も薬学も進歩してきたということなんだなぁ。


「今の薬師が作る薬では犯罪者が被験者になってもほぼ問題ない。効きが良すぎて焦る程度だ。
 自白剤や媚薬、精神病や体を弱らせる毒薬なんか開発していた昔は犯罪者が足りなかったらしい。
 そのうち、薬師がウンザリして開発に協力しなくなったとか言われてるけどな。
 まぁ、ある程度の開発が終わったから打ち切りになったと思うけど。」


あぁ、作ってはいけない禁止リストにあった薬のことかな。
昔の薬師は大変だったんだろうなぁ。
それに比べて私は自分の目を良くしたいからって研究させてもらえた。
そして、上司にも恵まれたのだろう。


「ジェイコブ様は、失明しなかったことを確認してから教えて下さるつもりだったのですね。
 異常があれば作り直しだし、異常がなければ失明の心配はないと報告してくれるつもりで。」

「そうだろうな。多分、結果を待つ間のミーシャの不安を考えたのだろう。
 まぁ、結局俺が教えてしまったけれど。」


話の間中、握ってくれていた手にもう片方の手を重ねて礼を述べた。


「いえ、ありがとうございます。納得しました。
 薬師を続ける上で、被験者は必要ですから。
 ジェイコブ様もどう話そうか悩まれて、私には結果が出てからの方がいいと思ったのですね。
 犯罪者と聞いて倒れる令嬢もいるでしょうから。」 

「うん。ミーシャは受け入れてくれると思ったから俺は話した。
 その上司はミーシャの性格まで知らないから後にするつもりだった。
 そもそも、ミーシャがこんなに疑問に思うとは考えもしなかったんだろうな。
 気を回した結果、逆の方が良かったわけだ。」


普通の令嬢は例え仕事といっても犯罪者と繋がりを持つことはない。
ましてや、終身刑や死刑囚なのだ。気分の良い話ではない。
ひょっとすると、投薬の場まで付き合う薬師も多いのかもしれない。
だけど、ジェイコブ様は私が望まない限り連れていくことはないだろう。
私も今のところは最初の治験を見る気はない。
もちろん、一般の治験者の経過はちゃんと見届けたいと思っているけれど。

 
ジェイコブ様の優しさをありがたく受け取っておくことにしよう。


 

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

あの、初夜の延期はできますか?

木嶋うめ香
恋愛
「申し訳ないが、延期をお願いできないだろうか。その、いつまでとは今はいえないのだが」 私シュテフイーナ・バウワーは今日ギュスターヴ・エリンケスと結婚し、シュテフイーナ・エリンケスになった。 結婚祝の宴を終え、侍女とメイド達に準備された私は、ベッドの端に座り緊張しつつ夫のギュスターヴが来るのを待っていた。 けれど、夜も更け体が冷え切っても夫は寝室には姿を見せず、明け方朝告げ鶏が鳴く頃に漸く現れたと思ったら、私の前に跪き、彼は泣きそうな顔でそう言ったのだ。 「私と夫婦になるつもりが無いから永久に延期するということですか? それとも何か理由があり延期するだけでしょうか?」  なぜこの人私に求婚したのだろう。  困惑と悲しみを隠し尋ねる。  婚約期間は三ヶ月と短かったが、それでも頻繁に会っていたし、会えない時は手紙や花束が送られてきた。  関係は良好だと感じていたのは、私だけだったのだろうか。 ボツネタ供養の短編です。 十話程度で終わります。

【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない

かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、 それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。 しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、 結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。 3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか? 聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか? そもそも、なぜ死に戻ることになったのか? そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか… 色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、 そんなエレナの逆転勝利物語。

婚約を破棄したいと言うのなら、私は愛することをやめます

天宮有
恋愛
 婚約者のザオードは「婚約を破棄したい」と言うと、私マリーがどんなことでもすると考えている。  家族も命令に従えとしか言わないから、私は愛することをやめて自由に生きることにした。

あなたに嘘を一つ、つきました

小蝶
恋愛
 ユカリナは夫ディランと政略結婚して5年がたつ。まだまだ戦乱の世にあるこの国の騎士である夫は、今日も戦地で命をかけて戦っているはずだった。彼が戦地に赴いて3年。まだ戦争は終わっていないが、勝利と言う戦況が見えてきたと噂される頃、夫は帰って来た。隣に可愛らしい女性をつれて。そして私には何も告げぬまま、3日後には結婚式を挙げた。第2夫人となったシェリーを寵愛する夫。だから、私は愛するあなたに嘘を一つ、つきました…  最後の方にしか主人公目線がない迷作となりました。読みづらかったらご指摘ください。今さらどうにもなりませんが、努力します(`・ω・́)ゞ

【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜

よどら文鳥
恋愛
 伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。  二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。  だがある日。  王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。  ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。  レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。  ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。  もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。  そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。  だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。  それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……? ※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。 ※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)

【完結】お荷物王女は婚約解消を願う

miniko
恋愛
王家の瞳と呼ばれる色を持たずに生まれて来た王女アンジェリーナは、一部の貴族から『お荷物王女』と蔑まれる存在だった。 それがエスカレートするのを危惧した国王は、アンジェリーナの後ろ楯を強くする為、彼女の従兄弟でもある筆頭公爵家次男との婚約を整える。 アンジェリーナは八歳年上の優しい婚約者が大好きだった。 今は妹扱いでも、自分が大人になれば年の差も気にならなくなり、少しづつ愛情が育つ事もあるだろうと思っていた。 だが、彼女はある日聞いてしまう。 「お役御免になる迄は、しっかりアンジーを守る」と言う彼の宣言を。 ───そうか、彼は私を守る為に、一時的に婚約者になってくれただけなのね。 それなら出来るだけ早く、彼を解放してあげなくちゃ・・・・・・。 そして二人は盛大にすれ違って行くのだった。 ※設定ユルユルですが、笑って許してくださると嬉しいです。 ※感想欄、ネタバレ配慮しておりません。ご了承ください。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。