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ミーシャだけでなく、犯罪に関わる機会がない者には知らない者が多い。
カーティス様はそう言った上で説明してくれた。
「医学や薬学という分野は、被験者が必要だろう?
誰にどんな反応が出るかはわからないし、量が多いか少ないかもわからない。
今ある薬というのは、昔から研究を重ねて安全性がほとんど確保されたものだ。
だけど、目の薬のように新薬というものは必ず開発される。
成分的には大丈夫だと思っていても、万が一失明したらと思うと怖いだろう?
そこで、被験者の前に試されるのが犯罪者だ。
犯罪者の中でも終身刑や死刑が決まっている者。
体を動かせる者は鉱山で働いたりするが、怪我をしている者や働く体力がない者。老人や女性。
そういった者が新薬の被験者になるんだ。
悪いことをして犯罪者になった者に世の中に役立つ貢献をしてもらう。
牢の中にいる間も彼らには食事が与えられる。それは国の金だ。
その対価として与えられる仕事だと思えばいい。
もちろん、新薬は薬師が自信をもって研究したものばかりだから、大きな害にはならない。
だけど、目の薬はおそらく片目だけで試すだろう。片目があれば身の回りのことはできるからな。
そこで失明したり、何か症状が出れば研究し直す必要が出てくるだろう。」
ミーシャは驚いたが、納得した。
今ある薬は全部、誰かが試した上で効能が認められているのだ。
そんな当たり前のことを考えたことがなかった。
自分が作った目の薬の被験者で悩んでいたのに………
万が一のことを考えて、犠牲になるのなら死刑が決まっている犯罪者ということか。
亡くなったとしても、死刑が執行されただけということになる。
そうして医学も薬学も進歩してきたということなんだなぁ。
「今の薬師が作る薬では犯罪者が被験者になってもほぼ問題ない。効きが良すぎて焦る程度だ。
自白剤や媚薬、精神病や体を弱らせる毒薬なんか開発していた昔は犯罪者が足りなかったらしい。
そのうち、薬師がウンザリして開発に協力しなくなったとか言われてるけどな。
まぁ、ある程度の開発が終わったから打ち切りになったと思うけど。」
あぁ、作ってはいけない禁止リストにあった薬のことかな。
昔の薬師は大変だったんだろうなぁ。
それに比べて私は自分の目を良くしたいからって研究させてもらえた。
そして、上司にも恵まれたのだろう。
「ジェイコブ様は、失明しなかったことを確認してから教えて下さるつもりだったのですね。
異常があれば作り直しだし、異常がなければ失明の心配はないと報告してくれるつもりで。」
「そうだろうな。多分、結果を待つ間のミーシャの不安を考えたのだろう。
まぁ、結局俺が教えてしまったけれど。」
話の間中、握ってくれていた手にもう片方の手を重ねて礼を述べた。
「いえ、ありがとうございます。納得しました。
薬師を続ける上で、被験者は必要ですから。
ジェイコブ様もどう話そうか悩まれて、私には結果が出てからの方がいいと思ったのですね。
犯罪者と聞いて倒れる令嬢もいるでしょうから。」
「うん。ミーシャは受け入れてくれると思ったから俺は話した。
その上司はミーシャの性格まで知らないから後にするつもりだった。
そもそも、ミーシャがこんなに疑問に思うとは考えもしなかったんだろうな。
気を回した結果、逆の方が良かったわけだ。」
普通の令嬢は例え仕事といっても犯罪者と繋がりを持つことはない。
ましてや、終身刑や死刑囚なのだ。気分の良い話ではない。
ひょっとすると、投薬の場まで付き合う薬師も多いのかもしれない。
だけど、ジェイコブ様は私が望まない限り連れていくことはないだろう。
私も今のところは最初の治験を見る気はない。
もちろん、一般の治験者の経過はちゃんと見届けたいと思っているけれど。
ジェイコブ様の優しさをありがたく受け取っておくことにしよう。
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