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しおりを挟む研究所の中に入ってからいつものように護衛と別れた。
この10日間、朝は病院で点眼してから研究所に来て、お昼にまた病院に行って点眼してから研究所に戻ってきて、そして帰りに病院で点眼して目に包帯を巻いた状況でカーティス様と護衛に付き添われて家に帰っていた。
ここの人たちは、研究が被ること以外にはあまり他の研究員に興味を示さない者が多いので、数人とすれ違っても受付の人以外、メガネのないミーシャ顔に驚く人はいなかった。
上司のジェイコブ様の部屋に行き、補佐の方にジェイコブ様の時間が空いている時に呼んで欲しいとお願いすると、すぐに部屋に通された。
「おやおや。メガネはいいのかい?前よりも遥かに見えるだろうが危ないだろう?」
「おはようございます、ジェイコブ様。
それが、最後の点眼を終えて今朝包帯を外すと良く見えるようになりました。
今、ハリー先生にも見てもらいましたが、目に異常はありませんでした。
見え方は3ポイント上まで見えていたので基準に入っています。」
「……そうかぁ。被験者の中にきみほど目が悪い人はいなかったからなぁ。
10日間の検証はできないままだった。
つまり、10日点眼すると誰でも基準に入るほど良くなる可能性があるということだね。
う~ん。これは他の人で試したくてもいないからなぁ。」
新たな結果に、目の良くなる薬はこのまま新薬として出してよいものかを考えているのだろう。
老眼の薬の方は、8か月で元のように見えにくくなった人がいるので、まだまだ検証する必要があるという結論になった。……のだが、そう説明したにも関わらず、それなら自分も被験者になると言い出した貴族が多いらしい。
8か月だろうが効果があるなら試したいらしい。
予想では半年~2年程度で薬の効果が切れるのではないかと思っている。
ただ、これは私がちょっと配合を変えて作った弱い効能の薬だから。
ちゃんと研究を重ねれば、もっと何年か保つ老眼の薬はできるかもしれない。
だけど、ジェイコブ様は今はこのままで良いという。
ひとまず、効果弱めの薬から研究を重ねて改良版を出すことはよくある。
治験の段階でここまで薬の開発の事実が知れ渡ってしまったならば、改良するので待ってほしいと言っても今の薬でいいと言われるだけなのだ。
効果が切れても、別に失敗している薬というわけではない。
ずっと効果が続くとは誰も言っていないのだから。
なので、8か月あるいはそれより早く効果が切れても仕方がない。
それを理解した上でも老眼の薬が欲しいという者が多いのであれば、薬として正式に世に出そうということになった。
それでも認可後、点眼が始まるのは約半年後。
なぜなら、目の専門病院を設けて専門の医師に任せることになったから。
ハリー先生もその中の一人。
そして、その病院で薬を作る薬師も雇う必要があるため。
被験者に点眼した薬は、開発したミーシャが作っていた。
正式に認可されれば、ミーシャの手を離れて薬師が調合することになる。
その後の検証も、目の専門病院で纏められたものが研究所に送られてくることになるのだ。
目の良くなる薬も、この老眼の薬と同じく専門病院で扱う予定だったのだが、ミーシャの目の良くなり方が今までの検証結果にないことであったために、ジェイコブ様は悩んでおられるのだろう。
「元々、あと3日点眼するとレンズ1枚分ずつ良くなるのか効果がないのか調べるつもりでした。
10日間で基準まで見えるようになったのは意外でしたが、私より目の悪い人はそうそういません。
私を普通の被験者扱いにすると、この薬は認可されることはないかもしれません。」
問題は私と比較できるような目の悪い人を見つけられないため検証できないこと。
私の目と同じ条件の被験者を10人以上集めようと思ったら何年かかるだろうか……
「だよなぁ。他の被験者は一段階ずつ見えて行って予想よりも見えることはなかった。
被験者が君一人では正確な検証とは言い難いが、滅多にいないということで認めてもらおう。」
目の薬は今までこの国にはなかったものである。
この新薬は失明する恐れがないし、被験者たちの改善具合から認可されるだろうとのことだ。
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