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しおりを挟むエドモンドとの閨事の回数が増えた。
リゼルが妊娠しないから焦っているのだろうか。
それとも、リゼルの知らない間に愛人がいて、その愛人と別れたから性欲処理のためだろうか。
エドモンドは初夜から閨事に手慣れていた。
シモーヌという前の婚約者がいた時でも、性欲処理のために娼婦でも抱いていたのだろう。
愛する人がいても性欲は別という男だったようだ。
子供ができなければリゼルと離婚するつもりなのかと思っていたが、リゼルに月のものが来ればエドモンドの方が落ち込んでいる気がした。
彼はあまりリゼルと会話をしようとしないので、何を考えているのかよくわからなかった。
それから少し経った時、レーゲン公爵が倒れた。
心臓に異常があるようだと言われた。
エドモンドは公爵の代わりに忙しくなった。
それからだろうか。公爵邸の中の雰囲気が変わった気がした。
離縁されないように控え目な言動をしていた公爵夫人がじわりじわりと表に出てきて使用人を完全に自分の支配下に置いたように感じた。
まるで、今を待ち望んでいたかのように。
一体、公爵家に何が起こっているのだろうか。
リゼルの漠然とした不安は思いもよらぬ形で終わりをつげた。エドモンドとの離婚、という形で。
その日、公爵夫人が呼んでいると庭に案内された。
しかし、案内された場所には公爵夫人はおらず、リゼルはどういうことかと侍女に聞こうとすると、そこにいたのは騎士の男だった。
リゼルはその男に、いきなり抱きしめられてキスされたのだ。
驚いて、苦しくて、押しのけようとしたが、拘束は緩まずビクともしなかった。
「ほら、ご覧下さい、エドモンド様。リゼル様はあの男といつもここで逢引きしているのです!」
……嵌められた。すぐそうだと気づいた。
侍女にリゼルの浮気を匂わされてやってきたであろうエドモンドは冷たい目でリゼルを睨んでいた。
「忙しくて私が相手をしなければ、そうやって男を誘う女だったとはな。」
あぁ、これはダメだ。怒りと仕事の疲れでエドモンドは冷静な判断ができないのだ。
「何も言い訳はないのか?」
「この男に突然襲われました。と言えば、エドモンド様は信じてくださいますか?」
リゼルを信じてくれる関係性は築けていない。エドモンドは未だリゼルに興味がないのだから。
「……君は悲鳴も上げずに男の腕から逃げなかったから嫌ではなかったのだろう?」
リゼルがどんなに抵抗しようとしていたか、エドモンドの方からはわからなかったのだろう。
襲ってきた男の体格はよく、しかも力強く体に腕を回されては逃げられるはずもない。
「あなたがそう思ったのであれば、私の言い訳など必要ないではないですか。」
リゼルはもう諦めた。疲れたのだ。ここでの暮らしに。振り向いてくれることのない恋に。
エドモンドとシモーヌの浮気のキスを見せつけられたこの四阿で、リゼルが夫ではない男とのキスで浮気だと詰られる。
涙と同時に笑いも込み上げてきそうだった。
「公爵家に嫁いだというのに、夫の目と鼻の先で浮気をするとはな。傷物でも心配なさそうだ。離婚しよう。」
「わかりました。最後に公爵様にご挨拶してもよろしいでしょうか?」
「……いや、父の体調のいい時に私から伝える。」
「そうですか。お大事にとお伝えください。」
心の中でレーゲン公爵に『耐えてくれと言われましたが、もう耐えられませんでした』と謝罪した。
リゼルは部屋に戻り、簡単に荷物をまとめた。
執事が持ってきた離婚届にサインし、公爵家の馬車で実家まで送り届けてもらった。
馬車の中でリゼルは呟いた。
「初めてのキスだったのに。」
リゼルは名も知らぬ公爵家の騎士にキスされた唇をゴシゴシと手の甲でこすった。
初夜でエドモンドのキスを拒んだ罰だろうか。
こうしてあっけなくリゼルの結婚は幕を閉じた。
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