好きな人に振り向いてもらえないのはつらいこと。

しゃーりん

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リゼルはシモーヌがメアリーに言った言葉をそのままエドモンドに伝えた。
 
 
『あなたたちはエドにつきまといすぎたわ。私は親切だから忠告してあげる。
エドには裏の顔があるのよ。卒業すればまずあなたの家を潰すでしょうね。
事業は負債を抱えるように仕向けて、妹は襲った後に娼館に放り込むつもりらしいわ。
あなたのせいで家族が苦しむのを見せつけてから、あなたを処分するでしょう。
彼が貰った今までの贈り物なんて、いつも無惨な姿に成り果ててるわ。 
外面を良くして、あちこちの令嬢を惚れさせて遊んでるの。邪魔になった女性が数人消えたわ。
今、彼が消すリストに載っている一番上があなたなの。
あなたのせいで家族を巻き込まれたくなければ、今すぐ王都から消えなさい。
私はもう逃げられないの。彼に穢されて家族も人質のようなものだから。』


その言葉を聞いたエドモンドは眉をひそめた。
 

「デタラメもいいとこだ。メアリー嬢はそれを信じたというのか?」

「婚約者だったシモーヌ様に言われたのです。恐ろしく感じてしまうのも無理はないでしょう?いかにも親切な忠告でシモーヌ様はメアリー様を気遣っているようにも感じました。
しかも、その日の夕方にメアリー様の妹は行方不明になりました。幸い、馬車に閉じ込められて置き去りにされただけで身の危険はなかったようですが、メアリー様はエドモンド様が本気で家族を苦しめるつもりだと思われたのでしょう。」

「家族に手を出される前に私を殺そうとしたってことか。自分の行動で残された家族がどういう目で見られるかまで深く考えることができなくなるほど追い詰められたんだな。」

 
エドモンドは大きなため息をついた。

メアリーの父クロップ伯爵は騒動の責任を取って爵位を親戚に渡した。
今は領地で家族と商売をしているらしい。

リゼルがメアリーを責めるつもりはないと言ったことで、父もレーゲン公爵もメアリーの家族まで追い詰めることはしなかった。慰謝料で手を打ったのだ。

社交界ではメアリーがエドモンドに振られた逆恨みによる凶行だと言われている。
本人が自害してしまったため、動機が他に思いつかないからだ。

そもそも、メアリーはナイフで刺すのではなく切りつけようとした。
か弱い令嬢に切りつけられたくらいでは致命傷にはならない。
実際、切りつけられたリゼルも傷跡は残ったが何か月も寝込むような重傷ではなかったのだから。

どうして刺さなかったのかはメアリー本人にしかわからない。


「だが、どうしてリゼルが知っている?メアリー嬢から聞いたのか?彼女と仲が良かった?」

「いえ、友人と呼べるほどの仲ではありませんでした。私は忘れ物を取りに戻ったときに教室で話している2人の会話を聞いてしまったのです。」

「そういうことか。だからメアリー嬢の凶行に気づけたと?」

「それは偶々です。向かう先はあなただろうとすぐにわかりましたが。」

「問い質してくれていれば……と思うのは今だからだろうな。」

「ええ。もし聞いていたとしても、シモーヌ様に言いがかりをつけたとメアリー様を非難して、クロップ伯爵家の事業を追い込むよう他貴族に口添えするだけであなたはシモーヌ様が吹き込んだ嘘の一部を現実のものとしたでしょうね。」

「あの頃の私なら、そうだったかもしれない。」 


そうなっていれば、シモーヌの嘘は嘘ばかりではなくなっていた。
リゼルも怯えて暮らしていたかもしれない。
 

「メアリー嬢はシモーヌの被害者だったんだな。気の毒なことをした。」


そう。彼女も被害者なのだと覚えていてほしい。



 
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