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しおりを挟むエドモンドが少し不機嫌で帰ったため、父が話の内容を聞きに来た。
「リゼル、エドモンド殿の用は何だったんだ?」
「離婚の慰謝料を払ってくれました。公爵夫人が仕組んだことで、事実確認を怠ったからと。」
「そうか。……彼が不機嫌だった理由は?」
「復縁を言ってきました。ただ、その理由が公爵家で知らない間に飲まされていた避妊薬のせいで不妊になった責任を取るからというものでした。しかも、跡継ぎは契約した愛人に産んでもらうからと言われたのでお断りしました。」
「……なんだ?そのふざけた復縁の申し込みは。」
「彼にとっては自分の子供だから、誰が産もうと育てようと構わないのでしょうね。それに、公爵夫人になれるのだから責任として十分だろう?と言われている気がしました。」
「伝えなかったのか?その、妊娠のことは。」
「はい。気づけば教えようと思いましたが気づかれなかったので、もういいかと。」
リゼルは妊娠している。エドモンドの子供を。
避妊薬を飲まされているのではないかと気づいたのは結婚して1年が過ぎた頃のこと。
エヴァンと夜会で話をした夜から閨を共にする回数が増えた。
規則的だった私たち夫婦の閨事が不規則になったことで慌てたのが侍女たちだった。
翌朝水を飲もうとすると、こっちの水を飲んでくれと慌てて運んできたり、就寝時に飲むように持ってきたり。
『あぁ、避妊薬を飲まされていたんだ』とすぐに気づいた。
エドモンドではなく公爵夫人の言いつけだと思った。
気づいてからはできる限り飲まないようにした。
避妊薬の中には不妊の副作用があると聞いたことがあったから。
しかし、リゼルが妊娠に気づいたのは離婚して実家に帰ってからのことだった。
通常は離婚後に発覚した妊娠は前夫の子供だと認められる。
だが、リゼルは浮気が理由で離婚したことになっているため、お腹の子供が前夫の子供だと認められない。
今となってはエドモンドもリゼルが浮気をしていないとわかっているが、嫡子にするにはややこしい手続きと証明が必要になり、しかも離婚しているのだから子供は夫に取られることになるのだ。
リゼルはエドモンドとの復縁を断った。
子供をエドモンドの子供だと認めることは、公爵家に取られるということだ。
取られたくなければ復縁すればいいのだが、エドモンドとは考え方が合わない。
いっそ、エドモンドがリゼルに対して以前のような無関心のままであれば耐えられるかもしれないが、そうはならないだろう。
リゼルと喧嘩してイライラしたエドモンドが浮気する未来が見えてしまう気がするのだ。
子供には申し訳ないが、リゼルはもう公爵家に関わりたくなかった。
もしエドモンドが、リゼルと復縁したいのは子供が産めないかもしれない責任というだけでなく、リゼルのことが好きだから、側にいてほしいからだと言ってくれたなら、リゼルはエドモンドの子供を妊娠していることを告げただろう。
そして、復縁を承諾していたかもしれない。
だが、彼の言う責任は本当に形だけだと思った。
愛人に子供を産ませる?
確かに、その可能性はあるかもしれないと以前も思った。
しかし、その時と今は状況も気持ちも違う。
憧れだったエドモンドが等身大の一人の男になり、夫としては最低だとわかった。
品行方正な姿も全てが嘘ではないにしても外面だったと知った。
それでも、偶の優しさには確かに救われたけど、絆されるほどではない。
復縁しても信頼関係は築けそうにない。
それどころか気まぐれに抱かれる娼婦のような扱いをされそうだ。
憧れの実態は知るもんじゃないわ。
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