好きな人に振り向いてもらえないのはつらいこと。

しゃーりん

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リゼルとアナレージュが話をしている間に、レイフォードとアミーナも楽しそうに話し始めていた。
しかし、レイフォードがふと気づいた。 


「あれ?アミーナ嬢、唇が切れてる。大丈夫かい?」


アミーナは泣きそうな顔で下を向いてしまった。見かねたアナレージュがレイフォードに言った。


「実はね、少し前に不慮の事故で汚らわしいものがアミーナの唇に触れてしまって、それ以来、つい擦っちゃうみたいなのよ。痛そうでしょ?あ、ちょうどいいわ。レイフォード、上書き消毒してあげて?」


リゼルとレイフォード、そしてアミーナはアナレージュの言いたいことを正確に読み取った。

つまり、ルースに無理やりキスされたのが嫌で嫌で擦ってしまって荒れた唇を治すために、レイフォードがアミーナにキスをして上書きしてやってくれと言ったのだ。

好きな人にキスされれば、もう手で唇を擦ることはないから。
 

「アナレージュ様、私、久しぶりにお庭を散歩してもいいでしょうか?」

「いいわね。行きましょう、リゼル様。」


『5分後に侍女に声をかけさせるから庭に来てね』

真っ赤な顔をした2人にそう告げて、リゼルとアナレージュは部屋を出た。




リゼルは久しぶりにレーゲン公爵家の庭を歩いた。
そして、あの四阿で、アナレージュに過去の因縁の話を聞かせた。


「実は、この四阿にはいい思い出がないのです。
ここは、エドモンド様が私の前の婚約者シモーヌ様との浮気のキスを何度も見せつけた場所であり、エドモンド様のお母様が私が浮気していると仕込むために公爵家の騎士に無理やりキスされた場所なのです。それを見られてここでエドモンド様に離婚を言い渡されました。」

「ここで?!こんなところで?屋敷から丸見えじゃない!」


ほら。すぐに気づいた。ここは浮気するのに向いていない場所なのだから。


「ちなみに、その騎士にされたキスが私の初めてのキスでした。」


アナレージュは理解できないといった顔をリゼルに向けた。


「え……?どうして。レイフォードがいるんだから、閨事はしていたのよね?」

「エドモンド様は結婚式でのキスを頬にしたのです。それを前公爵様に叱られ、渋々初夜にも来ました。
そこでキスしようとしたので『今更結構です』と断ったら、そのままキスすることなく離婚しました。
その騎士にされたキスが不快で、私も何度も唇を手で擦りました。まぁ、すぐ忘れましたけど。」


だからアミーナの気持ちが少しわかる。
でもアミーナほど若くもなかったし、キス以外の経験はしていたのでそれほど引きずらなかった。
キスや離婚よりも、妊娠していると気づいた時の衝撃が大きかったからだろう。


「……この四阿、取り壊す?」


物騒なことを言うアナレージュに驚いた。


「気にしないでください。もう十何年も前の話ですから。それよりも、いい思い出に変えたいです。
今度はここでお茶を飲みましょう?そしていつかあの子たちの子供、私たちの孫が遊んでいるところをここから眺めたいですね。」 

「いいわね。」


手入れがされている広大な庭でも、もう何十年も公爵家の子供が走り回って遊ぶ姿など見られなかっただろう。

しかし、3年後にはレイフォードとアミーナが結婚し、ここは明るい場所になるはず。

レイフォードの弟妹、ルティアとロイドも遊びに来るだろう。
あの子たちはおしゃべりで明るい。
 
ルティアは同じ伯爵家の幼馴染と仲が良く、そこに嫁ぐことに決まっている。
ロイドにはまだ婚約者はいないけど、相手に困ることはないと思う。12歳の今でも申し込みが山のよう。

 
エドモンドと結婚したから、レイフォードが生まれた。
離婚したから、エヴァンと再婚できた。
再婚したから、ルティアの母になれて、ロイドも生まれた。

3人の子供たちを育てられて、幸せだと思う。

エヴァンがそばにいてくれて、幸せだと思う。 


  

やがて、レイフォードとアミーナが幸せそうに手を繋いでやってきた。

両想い。

好きな人に振り向いてもらえることは、幸せなことだわ。



<終わり>

 

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