遺言による望まない婚約を解消した次は契約結婚です

しゃーりん

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今日は、王家主催の舞踏会で社交シーズンの始まりでもある。

そう、ディランに行くなと言われた舞踏会である。
しかし、クラリスは参加した。ルークの指示だ。
パートナーは父にお願いした。
母は領地に行ったままだ。今年も王都には来ないようだ。


父と共に挨拶に回る。
クラリスとディランが婚約していることを知っている人は、何故一緒ではないのか疑問に思っている。
そつなく会話を躱し、次へと移る。
その時、いきなり後ろに腕を引かれた。

「お前、来るなって言っただろ?どうしているんだよ。」

ディランが腕にハンナをくっつけたまま怒り出した。

「ごきげんよう、ディラン。どうしてと言われても…私は伯爵家の跡継ぎですわ。
 社交をするのは当然のことです。
 それに王家主催ですのに急病や遠方でなければ出席するのが貴族の習わしですわ。」

父が参加していれば伯爵家としての面目はたつが、敢えて言った。

「ディラン、そちらのご令嬢は?クラリスのエスコートはどうした?」

伯爵に聞かれ、周りにも注目されていることに気づいたディランはハンナを連れて慌てて去った。

そう。クラリスではなく違う令嬢を連れたディランを強く印象付けるため、そして、伯爵が知らない令嬢であることを知らしめるためにクラリスは舞踏会に出席した。そして思惑通りディランは絡んできたのだ。

まずまず注目された。
どこかで侯爵夫妻は見ていただろうか?
ディランの失態を叱責するだろうか?

乗っ取りは伯爵の同意ではない。周りにそのことがうまく伝われば良いが。






そして数日後、王城の法担当部署から呼び出しを受けた。夜遅くに手紙が届き、翌朝の登城である。
事前に横やりや調整をできないようにするためであろう。

案内された部屋に入ると、少し広めの部屋に大きな机が置いてある。
回りを椅子がぐるっと囲み、王宮官吏と思われる方々が既に席についており、案内された椅子の向かい側には侯爵夫人とディランが座っていた。

「おい!なんでお前が…」

「私語は禁止します。」

ディランが怒鳴ったところ、直ぐに官吏が黙らせる。

しばらくすると侯爵様も入って来られて、座った。


「お揃いですので、開始します。
 この度お呼びたてしましたのは、両家のディラン殿とクラリス嬢の婚約の正当性です。
 前侯爵様の遺言により従兄妹ではあるが両家が納得した縁組である。
 婚約証書にはそう追記がありました。
 これに間違いはありませんか?」

「ええ。そうです。」

侯爵夫人が答える。

「これは現状でも変わりありませんか?」

「もちろんです。」

また侯爵夫人が答える。

「ディラン殿、あなたの婚約者はクラリス嬢ですが、先日の舞踏会では別の令嬢がパートナーだったとか。
 本当にこの婚約に納得しているのですか?」

「………はい。」

「では何故、別の令嬢と?」

「…………」

「この婚約は侯爵家による乗っ取り事案ではないかと疑いをもつのですが?」

「何を言うんですか。弟が納得した婚約です。文句は言わせません!」

侯爵夫人が激怒する。

「侯爵殿。後ほど遺言書を拝見させていただきに一緒に屋敷へ伺います。
 まず、前侯爵様がどういう条件でこの縁組を望まれたのか、再度確認する必要があります。」

「遺言書は、また後日持ってくるわ。」

侯爵夫人が答える。

「いえ。既に書かれている遺言書ですので直ぐに確認できるかと。
 時間を空けると改ざんがされる場合もございますので。
 婚約証書に遺言書を確認したとの記載がありませんでしたのでね。」

その時、ようやく侯爵が口を開いた。

「……遺言書に婚約のことは書かれていない。伯爵家との婚約は解消する。」

「あなた!何を言ってるの?」

「これは、お前が言い出した婚約だ。
 ディランには良い縁組かと思ったが、確かに乗っ取りに見えるから世間体に悪い。
 他に好いた令嬢がいるのも見られている。解消すべきだ。」

「許さないわ。伯爵家は私のものだったのよ?ディランが継ぐべきよ。
 クラリスが邪魔なのよ。ディランと結婚して仕事だけすればいい。それが復讐なのよ?」

侯爵夫人の剣幕に、周りが目を見開いてびっくりした。

「…乗っ取り案件とみなし、両家の婚約は白紙とします。
 それと、侯爵夫人。
 あなたは伯爵夫妻及びクラリス嬢、伯爵家の使用人への接触禁止、伯爵家への立ち入りを禁止します。
 これを破った場合、実刑も考えられるとご理解ください。」

「どうして私が?認めないわよ。クラリス、覚悟しなさい!」

「侯爵殿、あなたに夫人を任せられますかな?無理ならば方法も考えますが…」

「大丈夫です。伯爵家には接触させません。きちんと見張ります。これで失礼します。」

そういって、侯爵夫人を無理矢理連れ去り、ディランが後を追いかけて出て行った。


「お疲れさまでした。これにて終了です。お気を付けてお帰りください。」

「「…ありがとうございました。」」

伯爵とクラリスがここに来てようやく発した言葉だった。

 
 
 
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