5 / 14
5.
しおりを挟む今日は、王家主催の舞踏会で社交シーズンの始まりでもある。
そう、ディランに行くなと言われた舞踏会である。
しかし、クラリスは参加した。ルークの指示だ。
パートナーは父にお願いした。
母は領地に行ったままだ。今年も王都には来ないようだ。
父と共に挨拶に回る。
クラリスとディランが婚約していることを知っている人は、何故一緒ではないのか疑問に思っている。
そつなく会話を躱し、次へと移る。
その時、いきなり後ろに腕を引かれた。
「お前、来るなって言っただろ?どうしているんだよ。」
ディランが腕にハンナをくっつけたまま怒り出した。
「ごきげんよう、ディラン。どうしてと言われても…私は伯爵家の跡継ぎですわ。
社交をするのは当然のことです。
それに王家主催ですのに急病や遠方でなければ出席するのが貴族の習わしですわ。」
父が参加していれば伯爵家としての面目はたつが、敢えて言った。
「ディラン、そちらのご令嬢は?クラリスのエスコートはどうした?」
伯爵に聞かれ、周りにも注目されていることに気づいたディランはハンナを連れて慌てて去った。
そう。クラリスではなく違う令嬢を連れたディランを強く印象付けるため、そして、伯爵が知らない令嬢であることを知らしめるためにクラリスは舞踏会に出席した。そして思惑通りディランは絡んできたのだ。
まずまず注目された。
どこかで侯爵夫妻は見ていただろうか?
ディランの失態を叱責するだろうか?
乗っ取りは伯爵の同意ではない。周りにそのことがうまく伝われば良いが。
そして数日後、王城の法担当部署から呼び出しを受けた。夜遅くに手紙が届き、翌朝の登城である。
事前に横やりや調整をできないようにするためであろう。
案内された部屋に入ると、少し広めの部屋に大きな机が置いてある。
回りを椅子がぐるっと囲み、王宮官吏と思われる方々が既に席についており、案内された椅子の向かい側には侯爵夫人とディランが座っていた。
「おい!なんでお前が…」
「私語は禁止します。」
ディランが怒鳴ったところ、直ぐに官吏が黙らせる。
しばらくすると侯爵様も入って来られて、座った。
「お揃いですので、開始します。
この度お呼びたてしましたのは、両家のディラン殿とクラリス嬢の婚約の正当性です。
前侯爵様の遺言により従兄妹ではあるが両家が納得した縁組である。
婚約証書にはそう追記がありました。
これに間違いはありませんか?」
「ええ。そうです。」
侯爵夫人が答える。
「これは現状でも変わりありませんか?」
「もちろんです。」
また侯爵夫人が答える。
「ディラン殿、あなたの婚約者はクラリス嬢ですが、先日の舞踏会では別の令嬢がパートナーだったとか。
本当にこの婚約に納得しているのですか?」
「………はい。」
「では何故、別の令嬢と?」
「…………」
「この婚約は侯爵家による乗っ取り事案ではないかと疑いをもつのですが?」
「何を言うんですか。弟が納得した婚約です。文句は言わせません!」
侯爵夫人が激怒する。
「侯爵殿。後ほど遺言書を拝見させていただきに一緒に屋敷へ伺います。
まず、前侯爵様がどういう条件でこの縁組を望まれたのか、再度確認する必要があります。」
「遺言書は、また後日持ってくるわ。」
侯爵夫人が答える。
「いえ。既に書かれている遺言書ですので直ぐに確認できるかと。
時間を空けると改ざんがされる場合もございますので。
婚約証書に遺言書を確認したとの記載がありませんでしたのでね。」
その時、ようやく侯爵が口を開いた。
「……遺言書に婚約のことは書かれていない。伯爵家との婚約は解消する。」
「あなた!何を言ってるの?」
「これは、お前が言い出した婚約だ。
ディランには良い縁組かと思ったが、確かに乗っ取りに見えるから世間体に悪い。
他に好いた令嬢がいるのも見られている。解消すべきだ。」
「許さないわ。伯爵家は私のものだったのよ?ディランが継ぐべきよ。
クラリスが邪魔なのよ。ディランと結婚して仕事だけすればいい。それが復讐なのよ?」
侯爵夫人の剣幕に、周りが目を見開いてびっくりした。
「…乗っ取り案件とみなし、両家の婚約は白紙とします。
それと、侯爵夫人。
あなたは伯爵夫妻及びクラリス嬢、伯爵家の使用人への接触禁止、伯爵家への立ち入りを禁止します。
これを破った場合、実刑も考えられるとご理解ください。」
「どうして私が?認めないわよ。クラリス、覚悟しなさい!」
「侯爵殿、あなたに夫人を任せられますかな?無理ならば方法も考えますが…」
「大丈夫です。伯爵家には接触させません。きちんと見張ります。これで失礼します。」
そういって、侯爵夫人を無理矢理連れ去り、ディランが後を追いかけて出て行った。
「お疲れさまでした。これにて終了です。お気を付けてお帰りください。」
「「…ありがとうございました。」」
伯爵とクラリスがここに来てようやく発した言葉だった。
327
あなたにおすすめの小説
最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる
椿谷あずる
恋愛
婚約者カインの口から、一方的に別れを告げられたルーミア。
その隣では、彼が庇う女、アメリが怯える素振りを見せながら、こっそりと勝者の微笑みを浮かべていた。
──ああ、なるほど。私は、最初から負ける役だったのね。
全てを悟ったルーミアは、静かに微笑み、淡々と婚約破棄を受け入れる。
だが、その背中を向ける間際、彼女はふと立ち止まり、振り返った。
「……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」
その一言が、すべての運命を覆すとも知らずに。
裏切られた彼女は、微笑みながらすべてを奪い返す──これは、華麗なる逆転劇の始まり。
全てから捨てられた伯爵令嬢は。
毒島醜女
恋愛
姉ルヴィが「あんたの婚約者、寝取ったから!」と職場に押し込んできたユークレース・エーデルシュタイン。
更に職場のお局には強引にクビを言い渡されてしまう。
結婚する気がなかったとは言え、これからどうすればいいのかと途方に暮れる彼女の前に帝国人の迷子の子供が現れる。
彼を助けたことで、薄幸なユークレースの人生は大きく変わり始める。
通常の王国語は「」
帝国語=外国語は『』
あの、初夜の延期はできますか?
木嶋うめ香
恋愛
「申し訳ないが、延期をお願いできないだろうか。その、いつまでとは今はいえないのだが」
私シュテフイーナ・バウワーは今日ギュスターヴ・エリンケスと結婚し、シュテフイーナ・エリンケスになった。
結婚祝の宴を終え、侍女とメイド達に準備された私は、ベッドの端に座り緊張しつつ夫のギュスターヴが来るのを待っていた。
けれど、夜も更け体が冷え切っても夫は寝室には姿を見せず、明け方朝告げ鶏が鳴く頃に漸く現れたと思ったら、私の前に跪き、彼は泣きそうな顔でそう言ったのだ。
「私と夫婦になるつもりが無いから永久に延期するということですか? それとも何か理由があり延期するだけでしょうか?」
なぜこの人私に求婚したのだろう。
困惑と悲しみを隠し尋ねる。
婚約期間は三ヶ月と短かったが、それでも頻繁に会っていたし、会えない時は手紙や花束が送られてきた。
関係は良好だと感じていたのは、私だけだったのだろうか。
ボツネタ供養の短編です。
十話程度で終わります。
【短編】将来の王太子妃が婚約破棄をされました。宣言した相手は聖女と王太子。あれ何やら二人の様子がおかしい……
しろねこ。
恋愛
「婚約破棄させてもらうわね!」
そう言われたのは銀髪青眼のすらりとした美女だ。
魔法が使えないものの、王太子妃教育も受けている彼女だが、その言葉をうけて見に見えて顔色が悪くなった。
「アリス様、冗談は止してください」
震える声でそう言うも、アリスの呼びかけで場が一変する。
「冗談ではありません、エリック様ぁ」
甘えた声を出し呼んだのは、この国の王太子だ。
彼もまた同様に婚約破棄を謳い、皆の前で発表する。
「王太子と聖女が結婚するのは当然だろ?」
この国の伝承で、建国の際に王太子の手助けをした聖女は平民の出でありながら王太子と結婚をし、後の王妃となっている。
聖女は治癒と癒やしの魔法を持ち、他にも魔物を退けられる力があるという。
魔法を使えないレナンとは大違いだ。
それ故に聖女と認められたアリスは、王太子であるエリックの妻になる! というのだが……
「これは何の余興でしょう? エリック様に似ている方まで用意して」
そう言うレナンの顔色はかなり悪い。
この状況をまともに受け止めたくないようだ。
そんな彼女を支えるようにして控えていた護衛騎士は寄り添った。
彼女の気持ちまでも守るかのように。
ハピエン、ご都合主義、両思いが大好きです。
同名キャラで様々な話を書いています。
話により立場や家名が変わりますが、基本の性格は変わりません。
お気に入りのキャラ達の、色々なシチュエーションの話がみたくてこのような形式で書いています。
中編くらいで前後の模様を書けたら書きたいです(^^)
カクヨムさんでも掲載中。
【完結】私が誰だか、分かってますか?
美麗
恋愛
アスターテ皇国
時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった
出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。
皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。
そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。
以降の子は妾妃との娘のみであった。
表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。
ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。
残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。
また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。
そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか…
17話完結予定です。
完結まで書き終わっております。
よろしくお願いいたします。
婚約破棄と言われても、どうせ好き合っていないからどうでもいいですね
うさこ
恋愛
男爵令嬢の私には婚約者がいた。
伯爵子息の彼は帝都一の美麗と言われていた。そんな彼と私は平穏な学園生活を送るために、「契約婚約」を結んだ。
お互い好きにならない。三年間の契約。
それなのに、彼は私の前からいなくなった。婚約破棄を言い渡されて……。
でも私たちは好きあっていない。だから、別にどうでもいいはずなのに……。
【完結】義妹と婚約者どちらを取るのですか?
里音
恋愛
私はどこにでもいる中堅の伯爵令嬢アリシア・モンマルタン。どこにでもあるような隣の領地の同じく伯爵家、といってもうちよりも少し格が上のトリスタン・ドクトールと幼い頃に婚約していた。
ドクトール伯爵は2年前に奥様を亡くし、連れ子と共に後妻がいる。
その連れ子はトリスタンの1つ下になるアマンダ。
トリスタンはなかなかの美貌でアマンダはトリスタンに執着している。そしてそれを隠そうともしない。
学園に入り1年は何も問題がなかったが、今年アマンダが学園に入学してきて事態は一変した。
突然倒れた婚約者から、私が毒を盛ったと濡衣を着せられました
景
恋愛
パーティーの場でロイドが突如倒れ、メリッサに毒を盛られたと告げた。
メリッサにとっては冤罪でしかないが、周囲は倒れたロイドの言い分を認めてしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる