戻る場所がなくなったようなので別人として生きます

しゃーりん

文字の大きさ
30 / 32

30.

しおりを挟む
 
 
ロベリー公爵がオードリック辺境伯の屋敷についた。

リリィはエイダン様と一緒に既に屋敷の中にいて、呼ばれるまでは姿を見せないことになっていた。
 

「着いたばかりだけど、公爵は呼ぶだろうか?」

「呼ぶでしょう。辺境伯様に軽くあしらわれてイライラするでしょうし。」
 

辺境伯様よりもジョーダンの方が爵位は上でも歳は30歳以上離れているため強く出難く、さっさと目的を果たしてしまいたいと思っているはず。

そう思っていたら、想像よりも早く呼ばれた。
まだお茶の一杯も飲み終わっていないのは確実だろう。

リリィはエイダン様と一緒に応接室へと向かった。



応接室に入ると、1年と数か月ぶりのジョーダンがいた。


「リアンヌ、元気そうでよかった。迎えに来たよ。一緒に帰ろう。」

「ジョーダン様、リアンヌは死にましたので帰りません。私はリリィとしてここで生きていきます。」 

「リアンヌ、心配しなくていい。帰ったら母にもロレッタにも罰を与えて君に関わらないようにさせる。
それに、君は死んだことになったから社交界に出る必要もなくなった。陰口を聞くこともなくなる。
だから、昼間は屋敷内で君の好きに過ごして構わない。これでいいだろう?」

「……いえ、戻る気はありません。」


その時、エイダン様が口を挟んだ。


「ちょっと待ってください。公爵は誰がリリィをあんな目に合わせたかご存知ということですか?」

「ああ。母とロレッタの共謀だ。」

「なのに、未だ罰を受けさせていないということは証拠がないためですか?」

「いや、証拠は掴んでいるがリアンヌを取り戻してからにしようと思っていた。ところで君は?」

「私はオードリック家三男のエイダンです。リリィを助けた者です。」

「あぁ、君が。妻が世話になった。だが、妻の生存を知らせてくれるべきでは?」


ジョーダンはエイダン様のせいでリアンヌを見つけるのに時間がかかったと思っているのだろう。


「私が知らせないでほしいとお願いしました。だって、葬儀が終わっていたのですから。
私は誘拐されて凌辱されて足を折られて森に捨てられたのです。戻ったところで公爵夫人として過ごせるはずもありませんし、私が戻りたいと思わなかったのです。」

「……凌辱されたのか?」

「ええ。ただ殺すためだけに連れ去られたわけではなかったようですね。」

「アイツらの計画では、隣国の娼館に売るはずだったのだが……」


ジョーダンはいつ計画を知ったのだろうか。リリィが攫われる前?それとも後?
おそらく、攫われる前から知っていたのではないか。そして何らかの手違いで誘拐を阻止できなかった。
そして、隣国の娼館や道中を念入りに探したがリアンヌは見つからなかったということなのだろう。


「あら。それでは誘拐犯の独断なのでしょうか?エイダン様が見つけてくださらなければ確実に死んでいたはずですので。」


運よく獣に出会わなくても、森の中から出られずに餓死していた可能性もあるのだから。
 

「他の男に穢されて……」

 
まさか、ジョーダンはその可能性を考えていなかったのだろうか。
リアンヌの身が穢されていたことを知って、彼の気持ちが揺らいだように感じた。

 
「殺そうとしたのではなく娼館に売ろうとしたのであったとしても、そんなことを計画する人たちがいるところに帰りたいとも思いませんし、戻って囲われるような暮らしも絶対に嫌です。
それに、私、結婚しました。リリィとして。エイダン様と。」


ジョーダンは呆然としたままリリィとエイダン様の顔を見て呟いた。


「結婚……?まさか、この男にも体を許したと?」

「ええ。子供も授かりました。」


リリィは妊娠がわかったばかりのお腹に手を当てて微笑んだ。



 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

跡継ぎが産めなければ私は用なし!? でしたらあなたの前から消えて差し上げます。どうぞ愛妾とお幸せに。

Kouei
恋愛
私リサーリア・ウォルトマンは、父の命令でグリフォンド伯爵令息であるモートンの妻になった。 政略結婚だったけれど、お互いに思い合い、幸せに暮らしていた。 しかし結婚して1年経っても子宝に恵まれなかった事で、義父母に愛妾を薦められた夫。 「承知致しました」 夫は二つ返事で承諾した。 私を裏切らないと言ったのに、こんな簡単に受け入れるなんて…! 貴方がそのつもりなら、私は喜んで消えて差し上げますわ。 私は切岸に立って、夕日を見ながら夫に別れを告げた―――… ※この作品は、他サイトにも投稿しています。

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました

Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、 あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。 ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。 けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。 『我慢するしかない』 『彼女といると疲れる』 私はルパート様に嫌われていたの? 本当は厭わしく思っていたの? だから私は決めました。 あなたを忘れようと… ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

愛される日は来ないので

豆狸
恋愛
だけど体調を崩して寝込んだ途端、女主人の部屋から物置部屋へ移され、満足に食事ももらえずに死んでいったとき、私は悟ったのです。 ──なにをどんなに頑張ろうと、私がラミレス様に愛される日は来ないのだと。

婚約者の様子がおかしいので尾行したら、隠し妻と子供がいました

Kouei
恋愛
婚約者の様子がおかしい… ご両親が事故で亡くなったばかりだと分かっているけれど…何かがおかしいわ。 忌明けを過ぎて…もう2か月近く会っていないし。 だから私は婚約者を尾行した。 するとそこで目にしたのは、婚約者そっくりの小さな男の子と美しい女性と一緒にいる彼の姿だった。 まさかっ 隠し妻と子供がいたなんて!!! ※誤字脱字報告ありがとうございます。 ※この作品は、他サイトにも投稿しています。

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。

恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。 キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。 けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。 セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。 キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。 『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』 キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。   そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。 ※ゆるふわ設定 ※ご都合主義 ※一話の長さがバラバラになりがち。 ※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。 ※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。

「最初から期待してないからいいんです」家族から見放された少女、後に家族から助けを求められるも戦勝国の王弟殿下へ嫁入りしているので拒否る。

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に仕立て上げられた少女が幸せなるお話。 主人公は聖女に嵌められた。結果、家族からも見捨てられた。独りぼっちになった彼女は、敵国の王弟に拾われて妻となった。 小説家になろう様でも投稿しています。

貴方でなくても良いのです。

豆狸
恋愛
彼が初めて淹れてくれたお茶を口に含むと、舌を刺すような刺激がありました。古い茶葉でもお使いになったのでしょうか。青い瞳に私を映すアントニオ様を傷つけないように、このことは秘密にしておきましょう。

処理中です...