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しおりを挟む子供のような怒り方で去って行った男爵令嬢を見送っていると、サニード王太子殿下が私に気づいた。
「アイビー嬢、待たせてしまってすまないね。時間がない。さあ、昼食を食べよう。」
「……はい。」
私、昼食を食べるためにここに来たわけじゃないんだけど?もちろん食べるけどね。
教会の話をするのに時間が足りるかなぁと思いながら、静かな部屋で昼食を食べていたら王太子殿下が謝ってきた。
「先ほどの会話を君がどこから聞いていたのかはわからないが、すまなかった。ほとんど昨日、君に言われたことをそのまま彼女に告げた形になってしまったから。」
「いえ、別に構いませんが。」
私に謝る意味がわからない。というか、簡単に謝罪の言葉を何度も口にする王太子殿下が心配だ。
「君に言われたことを友人たちにも話したんだ。そうすると、やはりいつまでキララ嬢の相手を続けなければならないんだ?と思っていたり、婚約者からも彼女が誰の愛人になるのかと聞かれたりで一緒にいることをいいように思っていなかったらしい。最初の対応を誤ったのが間違いだった。私が彼女を受け入れていたせいで友人たちにも迷惑をかけていたのだと気づいたよ。
それと……彼女は本当は愛人狙いだったのだろうか。どう思う?」
「愛人、と限定するのは疑問ですが、殿下を含め高位貴族令息の集まりですのであわよくば自分に夢中になってくれる方がいれば結婚も視野に考えていたのではないでしょうか?婚約者よりも自分を選んでくれると妄想していそうなお花畑令嬢でしょうね。ですが、あのあざとさに引っかかる令息もいるかもしれません。」
「あざとさって……」
「殿下、『阿婆擦れ、あざとい、品がない、厚かましい』は、確かにひどい暴言に思えますが、彼女の言動を見ている限り、そんなに外れているとは思えませんよ。
というか、遠回しに言っても彼女には通じないので、わかりやすく言えばその言葉になるかと思います。」
王族の王太子殿下は高位貴族とのお上品な付き合いしかないので下品な暴言に思えるのでしょうが。
下位である子爵令嬢であり、教会で平民と接する機会の多いアイビーには耳にすることが多い言葉でもある。
「あんなに礼儀作法のなっていない令嬢を私たちが愛人にする気があると思われていたことにも驚いたのだが、今の婚約者と婚約解消してまでキララ嬢を選ぶ可能性もあると思われていたのか。
だがどうしてだ?男爵令嬢である彼女を選ぶ利点がどこにあるのだ?」
首を傾げる王太子殿下に全くソノ気がないということはよくわかった。思いつきもしないのは笑えるが。
「男性の中には、頼られたり甘えられると嬉しくなったり、尊敬されたりすると自分が上等な人間になったように感じることがあるそうですよ。婚約者との仲がイマイチである場合、そんな女性が可愛く思えるのです。常に自分を持ち上げてくれると気分がいいですよね。
なので、側に置いておきたいと愛人にしたり、結婚したいと婚約を解消することになったり。
利点ということであれば、愛情とお金が続く限りは自分の思うように可愛がれるくらいでしょうか。
男爵令嬢は、殿下や周りの令息たちの妻か好待遇の愛人の地位を狙っていたという風に見えます。」
「可愛いから愛人に?妻に?そんな愚かな男がいるのか。」
思わず、王太子殿下は私の護衛のコルト様に目をやった。
「婚約破棄や婚約解消になる8割が男の心変わり、1割が女の心変わり、1割が家の事情と言われています。心変わりと言っても大半が婚約中の浮気ですね。愛人の女性との関係がバレます。」
コルト様の言葉に、王太子殿下は驚愕の表情をしていた。
側妃を娶ることもできる王族に生まれていながら、殿下は純粋培養で育ったようだ。
そして無情にも、昼休憩は終わった。
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