24 / 29
24.
しおりを挟むパキラス公爵様はアイビーが言ったことを考えているようだった。
だけど、アイビーは完璧な人間などいないと思う。
同じような資質の令嬢しか王太子妃になれないのは変だし、そもそも聖女だからという理由で王太子妃にしようという方が資質に問題があるのではないかと思う。
「王太子妃になるのだからとクレオリアに完璧を求めてきたが、それが誤りだったと?」
「誤りではありません。ですがまだ18歳なのですよ?助言してあげたり甘やかしてあげたりすることの何が問題なのでしょうか?自分で判断できないからと王太子妃になることを辞退させて、その後は?まさか欠陥品扱いのように後妻や修道院に行かせるとは言いませんよね?
クレオリア様は努力ができる方だと思います。過ちを指摘されればそれを糧にできる方でしょう。
クレオリア様が受け身だとおわかりなら尚更、ご両親が胸の内を聞いて差し上げてもいいのではないのでしょうか。今はまだご両親の庇護下にあるのです。いつまでも甘えてはいられないということは親元を離れたら実感します。ですが、その時は夫となる王太子殿下がおられます。お互いに支え合って夫婦になるのではないでしょうか。」
部屋の中が静まり返る。そんな変なことを言ったかしら。
「……公爵、私もある一学生に対し、対応を間違っていたことに気づかず周りに迷惑をかけていたと最近教えられた。言われなければ気づかないというのも問題なのだが、手遅れになる前に指摘され、何が悪かったのか反省できることも大切だと思う。王族の私でもそうなのだ。クレオリアとも話し合い、助け合える関係になっていきたい。」
王太子殿下の言葉に公爵様も肩の力を抜いた。
「……聖女様はクレオリアより年下だとは思えませんね。しっかりしている。」
「10歳で治癒魔力があると判明してからは、ほぼ教会で過ごしてきましたから。15歳で学園に通い始めてからは寮生活です。親元を離れて過ごす時間が長いせいかもしれませんね。」
親に放置されてきたわけではないが、やはり手元にいる他の子供の方が可愛いのは当然だ。
朝夕の食事を一緒にしても、治癒しかしていないアイビーに話せることもなく、買い物に連れて行ってもらえるわけでもない。
『行ってらっしゃい』『頑張ってね』『お帰り』『お疲れさま』『おやすみ』
学園に入る前は、そんな言葉だけになりつつあったのだから。
心の自立は早かった。……給金がないため金銭面の自立はできていないが。
国王陛下が空気を変えるように咳払いをしてから聞いてきた。
「アイビー嬢は王太子妃教育をしたくないと言っていたな。つまり、サニードの正妃になる気はない。その気持ちは変わらないか?」
「はい。ご存知かと思いますが治癒ばかりしてきましたので学園での成績も真ん中がやっとです。治癒者として、聖女として仕事をすることに問題はありませんが、王族として上に立つには教養がありません。
それに、先ほど国王陛下が平民の聖女に後ろ盾がなかったとおっしゃいましたが子爵令嬢の私も似たようなものです。公爵令嬢で王太子妃教育も終えられたクレオリア様がおられるのに、聖女というだけで私を正妃にしてしまうのは国にとっても良くないことだと思います。」
「では、クレオリア嬢が正妃、アイビー嬢が側妃というのはどうだろうか。」
側妃かぁ。お飾りならいいけど。
「正直に申し上げますと、側妃もお断りしたいところです。王太子殿下の寵愛がクレオリア様にあると周知の状態で側妃になることはお飾りのようなものです。私としてはお飾りでいいのですが、それを揶揄されたり哀れみの目で見られる可能性を考えると、側妃になる必要があるのか疑問に感じます。」
「……ではお飾りではなく平等とはならなくとも側妃とも閨を共にし、妃として蔑ろにしなければどうだろうか。」
いや、それを国王陛下が決めるのはどうかと思うけど?
1,840
あなたにおすすめの小説
氷の王弟殿下から婚約破棄を突き付けられました。理由は聖女と結婚するからだそうです。
吉川一巳
恋愛
ビビは婚約者である氷の王弟イライアスが大嫌いだった。なぜなら彼は会う度にビビの化粧や服装にケチをつけてくるからだ。しかし、こんな婚約耐えられないと思っていたところ、国を揺るがす大事件が起こり、イライアスから神の国から召喚される聖女と結婚しなくてはいけなくなったから破談にしたいという申し出を受ける。内心大喜びでその話を受け入れ、そのままの勢いでビビは神官となるのだが、招かれた聖女には問題があって……。小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?
長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。
王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、
「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」
あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星井ゆの花(星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2025年10月25日、外編全17話投稿済み。第二部準備中です。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)
蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。
聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。
愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。
いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。
ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。
それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。
心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。
婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました
日下奈緒
恋愛
アーリンは皇太子・クリフと婚約をし幸せな生活をしていた。
だがある日、クリフが妹のセシリーと結婚したいと言ってきた。
もしかして、婚約破棄⁉
【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。
--注意--
こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。
一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。
二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪
※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
平民だからと婚約破棄された聖女は、実は公爵家の人間でした。復縁を迫られましたが、お断りします。
木山楽斗
恋愛
私の名前は、セレンティナ・ウォズエ。アルベニア王国の聖女である。
私は、伯爵家の三男であるドルバル・オルデニア様と婚約していた。しかし、ある時、平民だからという理由で、婚約破棄することになった。
それを特に気にすることもなく、私は聖女の仕事に戻っていた。元々、勝手に決められた婚約だったため、特に問題なかったのだ。
そんな時、公爵家の次男であるロクス・ヴァンデイン様が私を訪ねて来た。
そして私は、ロクス様から衝撃的なことを告げられる。なんでも、私は公爵家の人間の血を引いているらしいのだ。
という訳で、私は公爵家の人間になった。
そんな私に、ドルバル様が婚約破棄は間違いだったと言ってきた。私が公爵家の人間であるから復縁したいと思っているようだ。
しかし、今更そんなことを言われて復縁しようなどとは思えない。そんな勝手な論は、許されないのである。
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる