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しおりを挟むアイビーは、治癒者としての給金と聖女としての給金をもらえることになった。
それを親に伝えると、『じゃあ、もう仕送りはいらないな。これからも頑張れ』と言われた。
繋がりが切れる寂しさを感じると共に、親の優しさも感じた。
彼らは聖女になった娘とは疎遠になる道を選んだのだ。
育てた分の費用として給金を送れと言うような親でもない。
娘に会いに来る家を王都に用意しろと言うこともない。
10歳で治癒魔法が使えると判明した時点で、甘やかすことも可愛がることも止め、さらに嫁いでしまえば帰省することも難しくなる娘と一線を引くことを選び、聖女となった後も近づかないことを選んだ。
万が一、政治や犯罪で親が利用されることになっても切り捨てろという意思表示でもある。
大人になってようやく、その意図を理解した。
アイビーとしても、今更家族ごっこは難しい。
親がその気であれば、アイビーもそれに従う。
ただ、近況は知っておく必要がある。
それと、誕生日のメッセージカードくらいは、送り続けたい。
コルト様は、学園から教会への行き帰りだけ護衛することになった。
学園内での問題は解決したからである。
彼の印象は、最初の頃に比べて徐々に変わり始めていた。
「聖女様は明日はお休みですよね。」
「はい。コルト様もゆっくりお休みください。」
「では、明日は王都の街を案内しましょう。見どころ、美味しい食事、甘味処、何がいいですか?」
「はい?コルト様が案内を?」
「ええ。あまり王都を知らないと言われていましたよね。休日に私がお連れしますので楽しみましょう。」
「あ、ありがとうございます?」
こんな調子でしょっちゅう出かけることになった。
友人のエライザに言うと『それってデートじゃないの?』と驚かれた。
「やっぱり?だんだんそんな気がしてきたの。」
「何か告白めいたことは?」
「具体的な言葉ではないのだけど、ふとした行動とか卒業後の話とか。」
「卒業後?」
「うん。『公私共にずっと護衛を続ける』ってどういう意味?そういう意味?」
「あー。思いっきり匂わせてアイビーの反応を見て楽しんでいそう。だってそんな真っ赤な顔見せたら誰でも自惚れてしまいそうだもの。それにアイビーの周りにいる令息ってコルト様だけだし。」
アイビーと王都の街を出歩くことで、コルト様以外に近寄る令息を排除しているのではないかとエライザは言う。
今思えば、学園にいる時にも散々令息たちに睨みをきかせていたようだ、と。
そう言われて、アイビーは真っ赤な顔を手のひらで覆った。
「アイビー、完璧に狙われているわね。卒業後、王宮内にある離宮で暮らすんでしょ?跡継ぎの令息との結婚はできないから次男三男にとっては高待遇の結婚だわ。聖女の夫で、住まいには使用人もいて、文官の職に就けるかもしれない。そんな考えの令息たちを一蹴できるのがコルト様だもの。公爵家の次男で聖女の専属護衛。」
「でも……コルト様に何のメリットもないわ。既に騎士なのだし公爵家なら別邸や保有爵位もあるでしょうし。」
「その辺はコルト様に聞いてみるしかないんじゃない?でも、あなたに気があるように見せかけてからかうような方ではないでしょ?
そもそも公爵家の令息なのに婚約者がいないということは、他家の婿になる気もなく保有爵位を継ぐ気もなく騎士として自立する気だったのではないかしら。」
妹であるクレオリア様が王家に嫁ぐことで、コルト様にも縁談の話がたくさんあったはず。
公爵家はどこを選んでも角が立つ状況になっていたのかもしれない。
コルト様に選択権を与えたら、どこも選ばなかったとか?………ありそう。
治癒の仕事ばかりで婚約者だったグリッチとも大きくなってからろくに話したこともなかったし、治癒に来る男性とも世間話程度だし、一応婚約者のいた身なので学園の令息とも親しくなったことなどない。
デートもエスコートもコルト様が初めてで自分が自惚れているのかと思っていたが、エライザから見ても狙われているということは、そう思っていいらしい。
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