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猿の叫び声みたいでうるさいと言われてムッとしたが、確かにいきなりやってきて叫んだのはマーシャリーなので、少し声を落とすことにした。
「離婚するのに、私が人前に出る必要ってあります?」
「離婚前提だと他の誰も知らないんだぞ?お前、テープラー男爵家の男と再婚するんだったらちゃんと公爵夫人の役目を果たしておかないと、その時に困るぞ。」
困る、かしら?
「公爵夫人として社交しないまま離婚したら、お前は努力すらしなかった落ちこぼれの女と思われるだろう。
公爵家を追い出され、見放された女と思われて、そんな奴と付き合いたい貴族がいるか?」
それは、嫌だわ。
「テープラー男爵家だけじゃなく、お前の実家のサットン男爵家も白い目で見られるだろうな。商売もうまくいかなくなるだろう。お前はそれでいいのか?」
マーシャリーは首を横に振った。
そこまで考えていなかったわ。
「お前は男爵令嬢だった。王命での結婚だから少しの間は広い目で見てもらえるだろう。だが、高位貴族は努力しない者に冷たい。
何もしないまま、この屋敷内から出ず、子供ができるのだけを待つ暮らしをするつもりでいたのか?」
ほんとだわ。
何も考えていなかった。
「何も公爵家の女主人として努力しろと言っているんじゃない。貴族夫人として相応しい礼儀作法や知識を身につけろと言っているだけだ。いずれ男爵夫人になった時に無駄になるものじゃないだろう?」
その通りだわ。
嫌がらせだと思ったけれど、これは自分のためになることだから。
「……わかりました。ちゃんと学びます。離婚までに完璧な淑女になってみせるわ!!」
マーシャリーはやるからにはとことんやってやろうと気合をいれて執務室を出た。
その後、先ほどと同じく、執務室の中でカイドが爆笑し、フィリップが頭を痛めていたことをマーシャリーは知らない。
部屋に戻ったマーシャリーは、教師が来るのは明日からだと聞き、それならば予習をしておきたいと教本を持ってきてもらい、それを読み始めた。
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