夫に聞けないことと私が言えない秘密

しゃーりん

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夫タイラーが閨事に関しての知識に疎いのは、侯爵家の方針と留学のせいもあるかもしれないと思っていた。


「留学?あぁ、隣国は確かに浮気に厳しい国だものね。
 万が一妻以外と関係を持ってしまえば、ずっと責任を負い続ける必要があるのよね。
 平民とか、相手によっては家族全員の面倒を見る必要もあるから気軽に手を出せないって。
 だから学生の時から羽目を外すような貴族はほとんどいないから、真面目に過ごしたってことね。」


隣国は、一昔前までは真逆だった。
大事にするからとソノ気にさせて女性を抱いて妊娠させても責任を取らず、子供を抱えて生活に困る女性が増えた。
そして、怒りの矛先はやはり男に向かい、刺されたり殴られたりする男が増えたのだ。
だが、罪に問われた女性を庇う声が大きくなってしまい、無責任な男たちが責められることになった。
そして風紀の乱れを正すために、浮気・不貞に厳しくなったという。


結婚前に女遊びをしろとは言わないけれど、真面目に過ごしすぎるのも問題なのかもしれない。
知識は必要だわ。

兄みたいに、婚約者公認で娼婦を性欲の発散として抱くのもなんだかなぁと思っていた。 

だから、タイラーみたいにルチルしか女を知らないというのは、ある意味嬉しくもあった。
はじめはぎこちなくても、そのうちお互いの体に馴染めば満足するだろうと。

だけど、月1回ではどうにもならない。
指摘すれば男のプライドを傷つけるのではないかと躊躇しているうちに妊娠したし。

産後は産後で誘われもしないし。体が馴染むなんていつ?状態。


「この間ね、私がジェイドの乳母に口には出さずに手で示して教えてあげたことがあったの。
 夫が『今のはどういう意味?』って聞いたから『首の後ろにキスマークがあったの』って教えたの。
 じゃあ夫は何て言ったと思う?」

「………まさかキスマークを知らなかったとか?」

「そうね。そういうことだと思うわ。
 夫はね、『侍女の誰かにいたずらで紅を付けられたってことか?』って言ったの。」
 

キスマークには本来は2種類の意味がある。

一つは、紅を付けた唇を肌や服に押し付けるとそこに唇の形の紅が移る。
浮気を匂わせる意味で昔はよく付けられることがあった。
しかし、ワザと付けられた高位貴族が相手の令嬢に衣装代を請求したことから激減したらしい。

もう一つは、いわゆる吸い跡、所有痕。
特に閨事の最中に夫が妻に付けることが多く、見える場所にはあまり付けないが、化粧で隠してもよく見たらわかることから自分以外の男を牽制する意味もあるし、見えないところは自分しかつけることができない場所だと所有欲を満たすと言われている。
 
乳母の首筋のキスマークを吸い跡だと認識しなかったタイラーには、その知識がないと思った。


「……説明したの?」

「いいえ?無意味だと思ったの。理解しないだろうと思って諦めたわ。
 それに、跡を付けられたことがない自分が説明すると惨めになりそうで。」

 
やはり先日、タイラーがルチルで興奮しなかったことがショックで、女としての自信は木端微塵だった。

 


 

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