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しおりを挟む『ハルモニア伯爵である父の娘は私一人。イゾベラは赤の他人だわ。』
パトリシアが発した言葉に、騒がしかったイゾベラとリチャードのクラスメイトたちは驚いて沈黙した。
そんな中、リチャードだけは空気が読めない。
「ベラが伯爵の子だと認められていないのは、君が許さないからなんだろう?君たちは誕生日が二日違いだというから伯爵の浮気が許せないのだろうが、こんなに姉を慕っているのに冷たくするなんて、『冷徹な姉』と呼ばれるに相応しいな。」
彼らのクラスでは『冷徹な』という言葉の意味を履き違えているのではないか。
冷徹というのは、冷たいという意味ではない。
感情に左右されることなく、冷静に物事を見抜くという意味で、悪い意味ではない。
『冷酷な』と勘違いしていそうだと思った。
「リチャード様、父を侮辱しているとお分かりですか?万が一、浮気をしてできた子がイゾベラだというのであれば父は間違いなく認知しています。それに、イゾベラがうちに来たのは私たちが一歳にもならない頃なのに、どうやって私が許さなかったというのです?」
「え……、一歳?」
リチャードはパトリシアの婚約者になったにも関わらず、父がいつ再婚したのかもわかっていなかった。
「イゾベラは、父が継母と再婚する際に、継母が連れて来た子ですが、継母の子でもありません。継母の姉の子です。平民の男と駆け落ち結婚してイゾベラが生まれましたが、夫に捨てられてイゾベラを育てるのに困って継母に押し付けて逃げたのです。従って、イゾベラは我が伯爵家とは無関係の平民です。」
「へ、平民?」
「侯爵様からお聞きになりませんでしたか?イゾベラは伯爵家とは無関係だと。」
リチャードは、あっと思い出したかのような顔をした。
「だ、だけど、ベラは君をお姉様と呼んでいたではないかっ!」
「いつもイゾベラと一緒にいたのにリチャード様は覚えていないのですか?姉と呼ぶのはやめてと私は何度も言いましたよ?」
「あっ……」
姉と呼ぶなというパトリシアの言葉の意味を理解せずに、イゾベラを妹と認めない冷たい女だと決めつけていたのはリチャードである。
「困っていたのは私のほうです。父は善意でイゾベラを養育してあげているだけで、家族ではないのですから。」
リチャードはイゾベラの方を見て聞いた。
「君は自分の素性を知っていたのか?それとも、伯爵の娘だと信じていたのか?」
「わ、私は……」
パトリシアの前で、知っていたのに知らなかったとは言えず、イゾベラは言葉を濁して俯く。
「だが、そんなに幼い頃から一緒に育ったのであれば姉妹みたいなものだろう?」
仮に、姉妹みたいなものであってもイゾベラがハルモニア伯爵家を継げないのは明らかなのに、リチャードは理解できないらしい。
「いいえ?私は一度もイゾベラに姉妹のような感情を抱いたことはありませんが。」
「一度も!?」
「ええ。継母が将来役に立つようにと、せっかく勉強やマナーを学ばせてくれようとしたのに、彼女は逃げてしまって学ぼうとしませんでした。一緒に努力していれば姉妹のような感情も芽生えたかもしれませんが、そうではなかったので。」
平民の中でも恵まれた暮らしをしていたイゾベラだが、努力することが一番嫌いで、何も学ぶことはなかったのだ。
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