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パトリシアが、イゾベラにハルモニア伯爵家から出て行ってもらうことは決定事項なのだとリチャードに話していると、うつむいていたイゾベラが顔を上げた。
「ね、ねぇ、パトリシア。私、本当にあそこから追い出されちゃうの?」
イゾベラがそう言うと、二人の立場の違いを正しく認識した周りはイゾベラの言葉に驚いた。
「平民なのに伯爵令嬢を呼び捨てって、正気かよ。」
「言葉遣いも失礼よね。」
「図に乗ってるんだよ。何をしても追い出されなかったから、これからも許されると思って。」
「ナッツ入りのクッキーのことなんて許せないわ。いらないって言われたら『健気な妹』を演じてパトリシア様を悪者にして、クッキーを食べていたら蕁麻疹が出ている姿をみんなに見せることで辱めようとしたってことよね。悪質すぎるわ。」
イゾベラの非常識ぶりは晒された。
『健気な妹』は幻想で、もう誰の目にも『無礼で愚かな平民』でしかない。
「あなたにはリチャード様っていう婚約者ができたわ。今後はリチャード様を頼りなさいね。」
パトリシアは清々しい思いでそう言った。
もう、ハルモニア伯爵家にイゾベラの帰る場所はないと示したのだ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。僕を頼られても困る。婚約解消の話はなかったことにしてくれ。」
「御冗談を。リチャード様の申し出を私はお受けいたしました。あとは手続きを済ませるだけです。」
「いや、ベラが平民だなんて思わなかったんだ。ハルモニア伯爵家に僕が必要だろう?」
「いえ、全く。イゾベラは生まれた時から平民で名字もレイン。勝手に勘違いして婚約解消を告げておいて、それをなかったことになどと、侯爵令息ともあろう者が卑怯ですわ。」
婚約解消を取り消すことなど、許さない。
「その通りね。私が婚約解消の証人になりましょう。」
そう言ったのは、パトリシアと同じクラスのカトリーナ第二王女殿下だった。
「カトリーナ様、ありがとうございます。」
「当然よ。ダリス侯爵家のリチャードがハルモニア伯爵家の跡継ぎであるパトリシアに婚約解消を言い渡し、平民のイゾベラと結婚すると言ったこと、しかと聞き届けました。
パトリシア、これは彼が別の女性に心を寄せたことが理由だから、婚約破棄にもできるわ。」
「あら。そうですわね。帰って父と検討しますわ。ありがとうございます。」
もう話は済んだと思い、パトリシアはクラスメイトたちとその場を去ろうとしたが、リチャードが慌てて引き留めた。
「待ってくれ。ハルモニア伯爵家には僕が必要なんだろう?」
さっきも彼は同じことを言っていた。何故?
「僕の、顔を利用したいのだろう?だから伯爵は婚約解消を認めないと思うぞ!」
そういう意味か。と思うと同時に吹き出すように笑ってしまった。
「リチャード様が侯爵様から婚約を結ぶことになった経緯をどう聞いているかはわかりませんが、我が伯爵家はあなたの顔を利用したいと考えたことなどありません。
侯爵様が息子のあなたを褒めるところが顔しかなかったので、飾り物のように隣に置いていればいいと意味でおっしゃっただけで、むしろ役に立たない飾り物を押し付けられようとしていたようなものです。」
「……え?どういう意味?」
リチャードの頭では理解できなかったようだ。
「要するに、父も私も、あなたを必要としていません。」
リチャードの勘違いは正せただろうか。
彼は何故か、自分の顔が婚約の理由だと思っており、自分が選ぶ相手がハルモニア伯爵になれると思っていた。
そのどちらもが、勘違いである。
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