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しおりを挟むどうやらリチャードの頭でも、パトリシアとの婚約解消は覆せないとわかったらしく、反論はなかった。
そのまま教室に戻ろうと思ったが、イゾベラに言うことがあったので振り返った。
「イゾベラ、午後の授業が終わるまでに、あなたの荷物を纏めて運ばせるわね。」
「え、そんな!?もう帰れないの?…ですか?」
再び、馴れ馴れしい言葉でパトリシアに問い返したが、周りのピリついた空気を感じ取って慌てて言葉を足していた。
「さっき言ったでしょう?リチャード様が婚約者になってくれると言ったのだから、今後は彼を頼りなさい。ハルモニア伯爵家での養育はこれを以って終了とするわ。」
「そんな……、あ、でも取りに行きたいものがあるの!…ですが。」
「大丈夫よ。部屋にある私物は運ばせるわ。」
「……あの、わかりにくいところに置いてあるものがあって、それは私じゃないと……」
口で説明すればいいのに、自分じゃないと見つけられないと主張するのは、何か疾しいものを隠していると言っているようなものだ。
「あぁ、私の部屋から持ち出して隠しているアクセサリーのことかしら?あれは実母が使っていた私にとって大切ものだから、全部イミテーションとすり替えさせて貰っているわ。だから売っても大した額にはならないと思うけれど、そうね。せっかく作ったイミテーションなのだから、それも荷物に入れるように指示しておくわ。」
イゾベラは、伯爵家を出ざるを得なくなった時のために、売って金にしようとパトリシアのアクセサリーを盗んでいたのだが、パトリシアの侍女たちは無くなっていることにすぐ気づいた。
取り返しても、また何か違う物を盗むだろうし、このことを継母に知られたくなかった。
そのため、イミテーションを作ってもらい、本物とすり替えた。
宝石はガラス玉である。
まさか知られているとは思わなかったのか、イゾベラは真っ青な顔色になっていた。
「イゾベラ、今までは継母のためにあなたを咎めるようなことはしなかったけれど、今後は言動に気をつけなければ犯罪者として捕まってしまうかもしれないわよ?
ハルモニア伯爵家とは縁が切れるから、継母を頼ることもできないと覚えていてね。」
継母リーシェは、姪のイゾベラよりも父とパトリシアを選んでいるのだ。
イゾベラが何をしようとも、一切対処しないと覚悟を決めている。
契約で結ばれた結婚だったが、父と継母はお互いを大切に思い合う関係になった。
パトリシアもリーシェを慕ってきたのだ。
今後は一切、イゾベラの犠牲になることはさせない。
「取りに行きたいものがある、ではなくて、お世話になった父と叔母である継母に最後の挨拶がしたいと言うなら会わせてあげようかと思っていたけれど、あなたは恩も感謝も感じていなかったのね。」
「あっ…………」
ちょうど、午後の授業が始まる予鈴が鳴り、言いたいことは言い終えたのでパトリシアは今度こそ教室に向かった。
一緒にいたクラスメイトたちは婚約解消を喜んでくれている。
彼らはこの三か月間、パトリシアがどんなに批判されても反論せず、我慢してくれていた。
みんなの協力があったから、リチャードが勘違いしたまま婚約解消に持ち込むことができたのだ。
その一方、リチャードとイゾベラのクラスメイトたちは、二人を置いて教室へと戻って行った。
騙された、嘘つき、図々しい、泥棒、恩知らず、性格が悪い、………
口々にそう言いながら。
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