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しおりを挟むカールストン公爵の庶子となるグレースと、ブランシェとアンゼムの長男エルシスの婚約を打診されたことはブランシェだけでなく皆の頭を悩ませた。
命令でなく打診。それでも、圧力を感じる。
グレースはカールストン公爵と王太子妃オフィーリア様との子。
オフィーリア様は公爵令嬢であったことから、グレースの血筋は文句のつけようがない。
それでも、表向きは母親が平民ということにするという。
平民の血を嫌う貴族もいるため、グレースをエルシスの妻にするとエメック侯爵家との付き合いを避けたり、二人の子の婚約者探しに悩む可能性もある。
グレースの素性を知っているからと言って、エメック侯爵家に得るものはないのだ。
たとえグレースが可愛くても、簡単に受け入れられることではない。
王家とカールストン公爵家の犯した罪を、押しつけられているようなものだった。
「あなた、せめてグレースの母親を平民ではなく貴族にはできませんか?そうでないと我が侯爵家は何も悪いことなどしていないのに、まるで咎を受けるかのようです。」
義母の言うことはもっともである。
グレースに罪はない。それはここにいる私たちはわかっている。
それでも、貴族というのは血筋を守る生き物で、家名に傷つけることを恐れるのだ。
「それもそうだな。もし、グレースを受け入れてほしいというなら、母親は貴族だったということにしてもらわないと難しいと返事をしよう。」
ブランシェの、”エルシスとグレースでは兄妹みたい”という感情は口に出さなかった。
カールストン公爵家に引き取られることになるグレースと離れると、そういう感情もなくなるはずだから。
それにしても、ブランシェは被害者だというのに、エメック侯爵家ならグレースを受け入れてくれるだろうという王家とカールストン公爵家の楽観的な考え方に、権力のある者たちはそれが横暴だとわかっていないのだろうな、とブランシェは思った。
カールストン公爵はその権力でオフィーリア様を奪われたというのに、自分も利用していることに気づいているのだろうか。
「それと、カールストン公爵と王太子妃殿下の二人は、もう逢瀬は許されないことになった。
公式行事以外での顔合わせは禁止だ。他の貴族に知られないためには二人への罰はそれしかない。」
愛する人の温もりを知ったというのに、会うことが許されない。
それは婚約解消したときよりもつらいことになる。
カールストン公爵には愛する女性との子であるグレースがいる。
オフィーリア王太子妃殿下の手元には何も残らない。それでも彼女には他に三人の子がいるのだから。
「王太子の愛妾も追い出される。元凶は王太子でもある。妻である王太子妃を大切にすると言ったからには、責任を持って夫婦であるべきだ、と陛下はおっしゃった。」
つまり、王太子夫婦は二人とも愛人を持つことを禁止されたらしい。
「ブランシェには慰謝料が支払われる。
ブランシェの失踪事件は、カールストン公爵家に子連れで押しかけてきた女性が騒いでいる現場にブランシェが出くわし、公爵の不貞を知られたのでひとまず隠さなければと公爵家の使用人が攫ったことになった。
産みの母親は逃げ、ブランシェと赤子だけが監禁されたという筋書きだ。
ブランシェの失踪騒ぎが大きくなって言い出せない間に月日は過ぎ、男は事故にあって白状した。
監禁されていた部屋は特殊な場所で、ひと月が一時間程度に感じる魔術が施されており、ブランシェは八時間しか経過していなかったと思っている。
ブランシェは一緒にいた赤子を連れ帰っただけ。そういうことになった。」
そんな嘘っぽい話を誰が信じるのか。
それでもそうだったのか、と軽く流されてしまうところが社交界にはある。
ブランシェの失踪は、もう旬を過ぎた話題だから。
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