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しおりを挟むフェリシア・ムジーナ侯爵令嬢は、一月後に結婚するはずであった。
婚約者が愛人と一緒に崖崩れに巻き込まれ亡くならなければ………
愛人の存在は知っていた。『高位貴族に愛人は当然だろ?』と平然と言う人だったから。
結婚が無くなり、両親も兄夫婦も『今後のことはゆっくり決めればいい』と急かすことなく見守ってくれる。
甥姪と遊んだり慈善活動をしたりして過ごし、気がつけば半年が経とうとしていた頃、王宮から手紙がきた。
『フェリシア・ムジーナ侯爵令嬢を国王の側妃として召し上げたいがどうだろうか』
お伺い?王命よね?…既に決定事項なんだろうなぁと想像もしなかった今後を他人事のように思っていた。
『高位貴族に愛人は当然』その愛人に似たような立場に自分がなるとは。
王宮で仕事をしている兄が帰ってくるなり側妃の事実を確認した後、謝ってきた。
「すまない、フェリシア。側妃の件は私のせいかもしれない…」
皆、兄がどう関わっているか疑問で首を傾けた。
兄が言うには、フェリシアの元婚約者が亡くなった時、その婚約者が自分の妹だということを国王は知っていたようだ。
数か月前に、国王から『妹は気落ちせず元気に過ごしているか?』と聞かれたという。
その時、『元々政略結婚で結婚前から愛人を囲っているような男に妹は気持ちがなかったので元気です』と答えたという。
『次の縁談は纏まったのか?』と聞かれたので『まだ』と答えると、『よい縁組があるといいな』と言われた。
ただそれだけの会話だ。
だが今日、王宮で『国王が国内の貴族に側妃の打診をした』と噂になった。
帰る頃には『ムジーナ侯爵令嬢』と相手が確定していて、知らない分からないとしか周りに言えない。
しかし、思い出したのは数か月前のあの会話だった。
「国王陛下は王妃様と結婚されてから2年経つが、お子様がおられない。
そろそろ側妃をという声があるのは知っていたんだが……迂闊だった。すまない。」
「お兄様のせいではありません。
王妃様は隣国の元王女様でいらっしゃるから、他国の方が側妃になることは難しいでしょう。
国内でといっても高位貴族の中では限られますもの。
野心のある貴族家が今の婚約を解消して娘を側妃にと名乗りをあげることを防ぐ意味でも私が適任だった。
そう思います。」
「……お前は良いのか?どうしても嫌なら何とかするぞ?…今はいい案が浮かばないが…」
「大丈夫ですわ。
今後どうするかを考えているところでしたが、意図せず決まってしまいましたね。
国王陛下と王妃様のお人柄はよくわかりませんが、お二人が私に望まれる形で過ごすつもりです。」
「国王陛下は横暴な方でも粗野な方でもない。
冷たいく感じるかもしれないが、真面目な方だと思う。ひどい扱いはされないだろう。
むしろ、王妃様との関係の方が気を遣うよな。
王妃様がお前と関わることを拒めば、おそらく公の場に出ることはなくなるだろう。
妃の一人として認める方であれば、公の場にも出る機会はある。
お前と会えなくなるわけではないが…あまり話せなくなるだろうな。」
「それは寂しいですが、お手紙書きますね。」
王宮に側妃の了承を伝えると、国王陛下から2通目のお手紙が…
側妃になるのは一月後と決まった。
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