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家に帰ったフレージュは、どうやら兄と妹の呼びかけにも応じることなく黙々と食事を口に運んで、食べ終わった途端、二人に談話室へと連れ込まれたようだった。
心配そうな二人の顔を見て、フレージュの意識は引き戻された。
「フレージュ、どうしたんだ?」
「……お兄様、婚約者って何でしょうか。結婚相手のキープ?」
「まぁ、キープと言えばキープだな。売約済みだから手を出すなって意味もあるんじゃないか?」
「売約済み……」
「まさか、ウィリアムがいるのに他に気になる男でもできたのか?」
だから学園に入ってから婚約するべきだったのに、と兄はブツブツ言っている。
兄は自分の好きな人を婚約者にしたから。
「お姉様、ウィリアム様と何かあったの?」
兄より妹の方が鋭いかもしれない。
「そういうわけじゃないの。人によって考え方はいろいろで、自分がおかしいなって思うことが相手もそうだとは限らないのねって反省しているというか、悩んでいるというか。」
婚約者と二人でいるところに入り込んできたマリエッタ。
目の前で婚約者に告白したマリエッタ。
恋愛してみたいと婚約者以外の女性を知ろうとするウィリアム。
フレージュを邪魔者扱いしたウィリアム。
婚約者ではないのにフレージュがいないところで二人きりで会っていたウィリアムとマリエッタ。
フレージュの常識からしてみれば、どれもこれもおかしいと思うことなのに、あの二人はそうは思わない。
フレージュが間違っているのだろうかと疑問に思ったり、反省したり、悩んだり。
「お姉様、私じゃ相談相手になれない?」
「そんなことないわ。でもまだ私も相談すべき内容が整理できていないっていうか、何を気にしているのかがわからなくなってしまって、少し時間が欲しいわ。」
兄が、婚約者はキープであると認めたことで、フレージュは妹にまで自分の考えが間違っていると指摘されてはつらいため、また後日にしてほしかった。
婚約者に邪魔者扱いされただなんて口にしたら、妹の前で泣いてしまいそうだし。
フレージュは何となく調子が戻らないまま、週末を過ごした。
翌週になり、婚約者と昼食を過ごす日、フレージュはいつもの場所に向かう足が戸惑うのを感じた。
少しゆっくり、緊張しながら向かうと、マリエッタが先に来ていた。
「ウィリアム様、違う場所に行きませんか?いい場所を見つけたんです!」
「そうか。じゃあ、行ってみようか。」
ウィリアムとマリエッタはフレージュが近くまで来ていることに気づかないまま、仲良く去って行った。
え…………?
ウィリアムは今日が婚約者との日だということを忘れてる?
それとも、フレージュに邪魔するなと言ったのは、もうここに来るなということ?
フレージュは二人を追いかけることも、跡をつけることもできずに呆然としていた。
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