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しおりを挟む婚約者だったフレージュには新たな婚約が結ばれ、このトレイル侯爵家は弟サミュエルが跡を継ぐ。
では自分は?
「ち、父上、俺はどうすれば?」
「ん?好きにすればいいだろう?お前は親の決めた婚約者を蔑ろにしたのだから、結婚相手は自分で探した方が納得するだろう。
卒業まであと一年半あるから、文官になるのか騎士になるのか、それとも何か事業をするために誰かの下で勉強するのか、自分で仕事を選び取れ。
ナターシャ嬢がサミュエルに嫁いで来るまでには、ここを出て自立するように。」
自立?!
自分の卒業まで一年半、その後ナターシャが学園を卒業するまで三年、結婚式まで半年くらいか?
つまり、五年後には出ていかなくてはならないのか?!
ウィリアムは、話は終わったから仕事の邪魔だと執務室から追い出され、トボトボと部屋に戻った。
「どうしてこんなことに……」
確かに、マリエッタと一緒に過ごしすぎた。
婚約者と過ごす曜日の昼食だけは、フレージュと過ごすべきだったのだ。
フレージュと過ごしていた場所から勝手に移り、マリエッタが選んだ場所はあまり人目につかないから二人でいても大丈夫だろうと思っていた。
だが、そうじゃない。
フレージュの言った通り、周りは違和感に敏感なのだ。
婚約者と過ごす日にマリエッタと二人きりならば、マリエッタが婚約者だと勘違いされる。
フレージュとの婚約を知っている者は、『婚約者であるフレージュと別れたい』とウィリアムがアピールしているのだと思っただろう。
そして三か月もマリエッタと一緒にいたことで、周りの誰もがウィリアムとフレージュの婚約は解消されたのだと思っていたに違いない。
誰も何も聞いてこなかったが、それはウィリアムが毎日マリエッタと過ごし、友人との時間も蔑ろにしていたからだろう。
違うんだ。マリエッタがウィリアムに好きになってもらおうと努力する姿が面白かっただけなのだ。
なのに、こんなことになるとは……
「ヤバい、どうしたら……」
フレージュとやり直すことは……無理だろう。
彼女のあの冷たい視線、彼女の兄ローレンスの厳しい口調、そして父からもフレージュに近づけば籍を抜くとまで言われてしまった。
「マリエッタは……」
彼女は子爵令嬢で、弟がいるため家は継げない。
婿入りできそうな貴族家は、確か今は難しいと父が弟に言っていたことがあった。
ならばどうすればいいのか。
「そうか!もう一度、跡継ぎに戻してもらえばいいんだ!」
そのためには、フレージュの妹ナターシャを口説けばいい。
サミュエルよりも大人な魅力を見せつければ、13歳の子供なんてコロッと落ちるはず。
夢中にさせてしまえば、サットン侯爵やフレージュたちも、『妹が本気ならば仕方ない』と許してくれるだろう。
そうなれば、跡継ぎの座はウィリアムに戻ってくる!!
「ザック!サミュエルが次にナターシャ嬢といつ会うのか、調べて来い!」
ザックというのはウィリアムの侍従である。
少し鈍くさい奴だが、これくらいはできるだろう。
……そう思った俺は甘かった。
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