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しおりを挟むウィリアムの侍従ザックは、父と弟を連れて戻ってきた。
「な、なんだ?!」
「……兄上、ザックに僕とナターシャ嬢が会う日を調べさせて何をする気です?まさかと思いますが、ナターシャ嬢を口説こうとか言いませんよね?ナターシャ嬢が兄上を選べば、自分が跡継ぎに戻れるとでも?」
全部、バレてる。
「おい、ザック!!まさかお前、告げ口したのか?」
「どういうことでしょうか。僕はサミュエル様にご予定をお聞きしただけですが?」
ザックは不思議そうに首を傾げている。
それを告げ口だと思っていないらしい。
「本人に直接聞く馬鹿がどこにいるんだ!!」
あぁ、違う。どこにいるも何も、ザックが馬鹿なのだ。
「ですが、僕はウィリアム様に調べて来いと言われたので、その通りにしたのですが。」
だから、何で直接聞くんだ?
「兄上はどうせザックに何も説明せず、しかも『僕に知られないように』とか『内密に』とか言わなかったんじゃないんですか?兄上の頭の中を覗けるわけではないのですから、言葉にしないと伝わりませんよ?」
サミュエルが苦笑しながら、そう言った。
俺の伝え方が悪かったと言いたいらしい。
そうだろうか。……そうかもしれない。……だが、だけど、、、クソッ!馬鹿は俺か?
「無駄な努力をしないように言っておきますけど、ナターシャ嬢は姉であるフレージュ様が大好きなのです。いくら兄上が口説いたとしても、兄上に靡くことはありません。」
「フレージュが俺の悪口を吹き込んでいるのか?だが、それが誤解だとわかってもらえれば……俺はフレージュのことを気に入っていたんだぞ?ただ嫉妬して俺に夢中になってほしかっただけだ。」
婚約を解消する前に、マリエッタと会わないでくれと言ってくれればよかったんだ。
いや、言っていたか。
でもあれは、二人きりで会うなという意味だったはず。
「無理ですよ、兄上。兄上が頭の中でフレージュ様のことをどう思っていたとしても、伝わっていませんでしたし、伝わっていたとしても、自分に好意を示しながらも他の女と恋愛したいという男なんて、ただの浮気男でしかありません。
兄上のしたことは、女性にとって幻滅する行為でしかなかったでしょうね。」
幻滅……それほどなのか。
フレージュが伯爵令嬢だったら、あるいはうちに援助していなかったら、こんなことにはならなかったかもしれない。
まさか、侯爵令息である自分が婚約解消される側になるとは思ってもみなかったんだ。
フレージュの方が立場が上だってことを、わかっていながらも驕っていたから、フレージュが縋ってくるだなんて勘違いができたんだ。
何が”大人の魅力”だ。
こんな男に、フレージュの妹が靡くわけがない。
それどころか、顔も見たくないだろう。
あぁ、だからか。
ここを出て自立しろとはそういう意味だったのだ。
「ナターシャ嬢がここに来る日は兄上にも伝えます。ですが、それは部屋に閉じこもってもらうか、外出してもらうためです。極力、ナターシャ嬢の前に姿を見せることはやめてください。」
サミュエルはそう言い残して部屋から出て行き、一言も話さなかった父は呆れた顔をしてため息をついてから出て行った。
今度、何かをやらかせば、貴族でいられなくなるかもしれない。そう感じた。
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