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しおりを挟むそれから正式に、ヘンドリック殿下とフレージュの婚約が発表された。
学園に行くと、フレージュはクラスメイトから祝福された。
おそらく、ヘンドリック殿下も同じようなことになっていると思われた。
そんな中、マリエッタだけは納得がいかないというような顔をしていたが、祝福ムードの中、水を差しては自分が非難されると思ったのか、何も言わなかった。
マリエッタは、昼休憩時、いち早く教室から出てウィリアムを捕まえに向かった。
「ウィリアム様!」
「……何だ?もう、昼食はいいと断っただろう?今日から友人と食堂で食べるから。」
マリエッタは先週、ウィリアムからマリエッタが持って来ていた昼食を”食べ飽きた”と言われて断られていた。
なので、一緒に食堂で食べようと思ったが、やはりウィリアムにはその気がなかったらしい。
しかし、マリエッタが慌ててやってきたのは昼食のことではない。
フレージュの婚約のことだった。
「ウィリアム様、フレージュ様はウィリアム様と婚約していながらヘンドリック殿下とお付き合いをしていたのですか?」
マリエッタの言葉に、ウィリアムだけでなく周りの者全員がマリエッタの方を見た。
「そんな馬鹿なことを口にするな!彼女との婚約は三か月前に解消されている!!」
「え?!そうなのですか?」
三か月前って、ウィリアムに告白した頃?
「私のために?」
私を選んでくれた?
マリエッタは盛大な勘違いをしていたが、周りの者は”この女をウィリアムがそばに置くようになったからフレージュの方が婚約解消をしたのだろう”と正しく理解していた。
「あーもうっ!ちょっと来い!」
ウィリアムは怒っていたが、マリエッタは照れているのかもしれないと思っていた。
みんなの前で告白するのではなく、二人きりで愛の告白をしてくれるのだ、と。
フレージュに勝ったのだとマリエッタは笑いそうになった。
侯爵令嬢が子爵令嬢に男を取られただなんて。
なぜかフレージュは第二王子と婚約したが、そこは単に“侯爵令嬢”だから選ばれただけ。
ウィリアムと婚約解消になって、相手がいなかったからたまたまだと思うことにした。
人気の少ない場所でウィリアムはマリエッタに向かって言った。
「非常識な奴だな。王族の婚約を貶すような発言をするなんて。所詮、お前は教養の浅い子爵令嬢でしかないな。」
ウィリアムの冷たい視線に、マリエッタは何を言われたのかわからなかった。
「……え?」
「王族の婚約者になる令嬢が、婚約者がいる状態で候補に選ばれるわけがないだろう?フレージュが候補になった時にはもう俺たちの婚約は解消されていたんだ。
さっきの発言は、フレージュだけではなくヘンドリック殿下に不敬だとわからないのか?」
「あ…………」
マリエッタは血の気が引くのを感じた。
何人もの人がいるところで、なんということを言ってしまったのか。
「ご、ごめんなさい。フレージュ様が個室に入って行くところを見たから、てっきり浮気していたのかと思って。」
「個室に?いつのことだ?フレージュ一人で?」
「先週見たの。フランチェスカ様も一緒だった。」
「……それのどこが浮気だよ。」
確かに。
先週ならもう婚約は結んでいたのだろうし、二人きりでもない。
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