19 / 23
19.
しおりを挟むプリズムは安定期に入り、少し膨らんできたお腹を愛おしそうに撫でながら後ろから抱き着いているジュリアスにすっかり慣れてしまった。
ジュリアスは、プリズムと2人で過ごす時間はほぼ密着しているのだ。
この点に関しては、コンラッドよりも束縛が強いのではないかと感じている。
ホープが一緒にいる時は、ホープの相手をしてくれる良い父親だと思った。
コンラッドが亡くなって10か月が経とうとする頃、ようやく事件の全貌がわかった。
まず、コンラッドは人違いで攫われたと言われた。
本来は、別の令息が攫われるはずだったが、その者は事件の少し前に髪を切っていたために犯人たちに見過ごされたようで、同じ青い目に長い金髪のコンラッドが間違って連れ去られてしまったのだという。
コンラッドは次回の集まりの部屋のことで社交クラブの担当と話をしており、他の令息たちよりも少し遅く出ることになった。
周りに誰もいなかったことで、犯人たちに容易く眠らされて馬車に乗せられたのだ。
そして、サフィニア・コートアル子爵令嬢と一夜を過ごしたように見せかけるために連れ込み宿で寝かされた。
依頼主の指示はここまでだった。
あとは、連れ込み宿に男といるとサフィニアの親に手紙を渡して見つけさせるだけ。
婚約を解消させることが目的であったから。
どうやら実行犯のサップは、令嬢を攫った手紙を出すことを忘れていたようだ。
娘が帰ってこない子爵家では、また連絡を忘れて友人宅にいるのだろうと思っていたという。
そして宿では、実行犯の男が気を利かせたつもりか実際に関係を持たそうと媚薬を2人の口に入れた。
目が覚めたら体が熱くなっていて、お互いに目の前にいる者と交わりたくなるだろう、と。
しかし、媚薬だと思っていたその薬が毒薬だったのだという。
犯人たちも気づいていなかった。
そして、まるで服毒して心中したかのように見える形でコンラッドたちは亡くなってしまった。
「実行犯の一人も毒薬を媚薬だと思って飲み、死んでいました。」
毒薬や媚薬を保管していた事務所はもう別人が借りている。
ボブが知っていた隠し場所には、もちろん何もなかった。
他の裏稼業の者たちは、別の場所に移ったのだから。
捕まったのは、依頼主の子爵令嬢アマンダとボブ、そして馬車を出したテリー。
テリーが受付の男を刺し殺して、金を奪っていた。
コンラッドの事件は、これで捜査終了となったと告げられた。
侯爵夫妻も、ジュリアスもプリズムも、まさかの結果に怒りと悲しみのやり場もない。
「まさか、人違いだったとは………」
「侍従を連れずに単独だったことがよくなかったのでしょうね。」
治安の良いエリアにある社交クラブの建物は屋敷からそんなに遠くはない。
初めは侍従を連れて馬車で行っていたが、帰りに混み合い渋滞する。
やがて、深酒をしない若者は馬で駆けてくる者が増え、待つだけの侍従も置いて行くようになった。
「不運が重なったんだな。それもあいつの運命だ。悔やんでも生き返りはしないのだから。
コンラッドの分までホープを大事に育てる。残された我々にできることはそれしかない。」
侯爵であるお義父様の言葉に頷くだけだ。
人違いに薬違い。
一人の令嬢の横恋慕が何人もの命を奪う結果になってしまった。
彼女は『こんなつもりじゃなかった』と言っているに違いない。
確かに実行犯の間違いは彼女の意図しないことだった。
だが、そもそも身勝手な依頼をしなければ事件は起こらなかったのだから。
応援ありがとうございます!
20
お気に入りに追加
723
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる