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しおりを挟むひと月目は『隣に座る』を月末までのあと10日間続けた。
これは平気そうだった。
それはそうだ。卒業式に横抱きをして触れていたのだから、問題ない。
ふた月目は『手を繋ぐ』。
そう伝えると、フルールは自分の手のひらをジッと見た。
フルールとはダンスをしたことがあるため、手を触れ合わせたことはある。
アトラスは手を差し出し、フルールが乗せるのを待った。
彼女はチョンっと指先で手のひらに触れてから、ふふっと笑い、手を乗せてきた。
平気そうだ。
月末までに、指を絡ませて繋ぐことができた。
三か月目は『腕を組む』。
これは、フルールが自主的に触れてこなければならない。
最初は袖を掴んだりしていたが、月末までには腕を組んで庭を散歩できるようになった。
四か月目は『肩を抱かれる』。
アトラスがフルールの肩に腕を回すことになるため、顔の距離が近くなる。
嫌がって逃げることはないが、顔はなかなかアトラスの方を見てくれなかった。
それでも月末には肩の力を抜いて話ができるまでになった。
五か月目は『腰を抱かれる』。
肩と似た距離にはなるが、腰に触れる方が親密度は増す。
腕が背中に触れていることもあり、少しゾワゾワとした感じに慣れなかったようだ。
それでも月末には頭をアトラスの肩にもたれさせることもあった。
六か月目は『後ろから抱きしめられる』。
一気に触れ合う面積が増える。
最初はマントだと思うことにしたようで、笑った。
耳元で話すと怒られ、後ろから顔を覗き込むと怒られ、やがて笑いになった。
七か月目は『前から抱きしめられる』。
これには手こずった。
顔を上げてくれるまでに時間がかかり、背中に手を回してくれるのは無理かと思った。
だが月末には抱きしめ返してくれた。
八か月目は『髪に口づけられる』。
これは前から抱きしめていると簡単にできる。
フルールも平気そうだったが、目の前で長い髪を掬って口づけると顔を真っ赤にしていた。
これが恥ずかしいとは不思議だ。髪先にも感覚があるのか?
九か月目は『手に口づけられる』。
最初は指先に軽く。それから手の甲に長く。
油断させておいて月末には手のひらに長く口づけると慌てて手を抜き取られた。笑った。
十か月目は『額に口づけられる』。
どうしてか、これは平気そうだった。
前から抱きしめるのと、髪に口づけるのとで慣れたのかもしれない。
アトラスが額にしかキスをすることがないとわかっているからか、安心しきった顔をしていた。
十一か月目は『頬に口づけられる』。
これはさすがに恥ずかしそうだった。
しかも、頬とは意外と範囲が広いのだ。
頬と言いながら目元にもできるし、鼻にもできる。耳の近くにも、唇の真横にも。
それでもフルールは逃げなかった。
そして最後の十二か月目は『唇に口づけられる』。
フルールも予想できていただろう。
顔中に口づけて、唇に軽く触れた。
顔を真っ赤にしていたが、逃げなかった。
月末には舌を差し入れることもできた。
「ハグとキスは幸福度を高めると言われているんだ。もちろん、心を許した相手に限ってね。」
「そうなの?」
「ああ。だから私はフルールに触れられる毎日が幸せだ。」
そう言うと、フルールは笑顔を見せた。
そうしてひと月も持ち越すことなく、翌月、アトラスとフルールは結婚した。
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