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しおりを挟む仕事を終えてブレイズが帰ってきた。
「おかえりなさい。お疲れさまでした。」
「ああ。ただいま。」
「後で話があるの。寝室でいいかしら?」
「話……?うん、じゃあ、寝る前に。」
二人きりの時に話したいというメルリーに気づいてくれたのか、ここで話せとは言われなかった。
夜、ベッドに入る前にメルリーは夫ブレイズに聞いた。
「ブレイズ、親睦会の度にあなたが女性と親密なキスをしていると聞いたわ。本当?」
「親密って……ただの酔っ払いだから。」
ブレイズは苦笑しながらそう言った。
しかし、こちらとしてはそれで済む問題ではない。
「酔っ払いでも、私は嫌だわ。もう止めてほしいの。」
「止めろって言っても、してくるのは向こうだから。俺の意思じゃないし。」
「拒絶するべきだわ。受け入れているのは変よ。」
ブレイズは頭をガシガシと掻きながら言った。
「あのな、アイリーンのキスはあの隊では公認みたいなものなんだ。俺が入る前から何人も相手がいた。」
「でも、ここ二年はあなただけって聞いたわ。おかしいじゃない。」
「一度、婚約者のいる奴が本気で怒ったんだ。アイリーンは泣いて大変だった。で、慰めてたら下っ端の俺が責任持って相手しろってことになったんだ。」
あなたにも私という婚約者がいたでしょう?
「でも、もうあなたが一番下の下っ端でもないし、結婚しているのよ?私のことも考えて。」
「たかがキスくらいで……あぁ、わかったよ。何とかしてみるから。」
どこかヘラヘラと笑ったように答えるブレイズがどこまで真剣に何とかする気なのかはわからない。
キスの話をしていたというのに、キスをしながらベッドに倒され、体をまさぐられていた。
本当は、抱かれる気分ではなかった。
でも、拒絶すれば、ブレイズはしばらく機嫌が悪くなる。
子供が欲しいメルリーは、モヤモヤしながらもブレイズを受け入れた。
月に二度ほどある親睦会の日、メルリーは寝ないでブレイズを待っていた。
「おかえりなさい。」
「うわっ!びっくりするじゃないか。寝てなかったのか?」
メルリーは明かりを点けた。
そしてブレイズの唇を見ながら答えた。
「ええ。……拒絶してくれた?」
「何を?」
「アイリーンさんの、キス。」
「あ…………」
ブレイズの反応でもわかるが、唇を見てもわかる。心なしか腫れているから。
首筋に吸い跡まであるし。
メルリーは気づいた。
これは、アイリーンさんからの宣戦布告なのだということを。
今までもそうだったのかもしれないが、メルリーは気づいていなかった。
「ブレイズ、あなたは結婚しているの。アイリーンさんと変な噂になったら困るでしょう?」
「大丈夫さ。アイリーンのキスのことは隊の中では当たり前のことだし。」
「隊以外の人が見ていたら?どうして誰も彼女を止めないの?自分が犠牲になりたくないからでしょう?」
「犠牲って、ひどい言い方だな。じゃあお前は自分のために他の男を犠牲にしろって言うんだな?」
他の人たちはあなたを犠牲にしているのに。
「あなた一人が犠牲になるのが正しいこと?他の人を犠牲にするのではなくて彼女の行動を止めるべきじゃないの?」
「俺は犠牲だなんて思っていないからな。別にいいじゃないかキスくらい。」
「私は嫌だって言ってるのよ。」
「キスするのはお前じゃなくて俺なんだからいいじゃないかっ!」
「……本気で言ってるの?」
ブレイズは舌打ちをしてから、浴室へと向かって行った。
メルリーとブレイズの倫理観と道徳観が合わないらしいことは決定的だった。
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