あなたに最後の贈り物を

しゃーりん

文字の大きさ
10 / 30

10.

しおりを挟む
 
 
メルリーはナディア様からアイリーンさんの話を聞いても、夫ブレイズの所属する第三部隊、あるいは騎士団上層部の考えや対応が間違っていると思っていた。 

何故、メルリーが不快さを我慢しなければならないのか。

しかし、一番メルリーを守るべきブレイズが悪いことをしていると思っていない。

そこが問題だった。




「おかえりなさい。お疲れさまでした。」


アイリーンさんのことで言い合いになってから、ブレイズは不機嫌なままだった。
今まで、夜勤や親睦会以外では、早番・遅番ごとに決まった時間に帰ってきていた。 

なので、結婚後のブレイズは浮気をしていないと信じていた。

だが、最近は三日に一度は少し遅めに帰ってくる。

娼婦で性欲の発散をしているのではないか、とメルリーは思っていた。
あれからブレイズはメルリーを抱いていないから。

後ろめたいせいか、ブレイズはメルリーをちゃんと見ずに逃げるように浴室に向かうから。

ブレイズの中では、娼婦を抱くことも浮気ではないらしい。




 
もう、私たち夫婦は修復不可能なのかもしれない。

ブレイズが既婚者ではなくなることが、第三部隊にとっては望ましいし、アイリーンさんにとっても妻から奪ってやったと満足するのではないかと思う。
 
メルリーだけが傷を負うことになる。

アイリーンさんの問題は何も解決しないが、それはもうメルリーには関係なくなる。


再び、訓練場を訪れて、アイリーンさんにキスをやめてくれと言う気も失せてしまった。




ブレイズと今後のことを話し合いたいと思いながらも切り出せない日々が続き、また親睦会の日が来た。

メルリーはもうブレイズを起きて待たない。
彼がメルリーの懇願を無視して、アイリーンさんとキスをするのは間違いないから。

夜中の言い争いは、もうごめんだった。



うとうとと眠りが浅かったがいつの間にか深く眠っていたらしい。

急に体をまさぐられて驚いた。
親睦会から帰って来たブレイズが、メルリーを抱こうとしているのだ。 

ここで拒絶したら、完全に夫婦仲は終わるだろう。
それがわかっているのに、いや、わかっているからか、メルリーは拒絶しなかった。

久しぶりにブレイズに求められて嬉しいと思ってしまったからだった。

状況的には別れた方が、メルリーにとっていいはずだとわかっている。
けれど、メルリーはまだブレイズが好きだった。

性急にメルリーの体を慣らした後、ブレイズはいつになく激しくメルリーを抱いた。
久しぶりに何度も求められ、嬉しいと感じた。



その後、ブレイズの不機嫌さはなくなった。

以前のように優しく、いつもの時間に帰ってきてメルリーを抱く。
まるで新婚当初のような、甘い雰囲気も戻り、休日には手を繋いで出かけたりもした。

そう。
アイリーンさんとのことを知らなければ、メルリーはそこそこ幸せな毎日を送っていたのだ。
憂鬱だったのは、あのお茶会だけで。

夫の行動を知らないことで笑われていたと知った今、一生知らないままでよかったと思う時もある。
  
だけど、知ってしまった。
ブレイズもそのことを知っているのに、メルリーを再び大切にしてくれるようになったのは、アイリーンさんのキスを受け入れることをやめる気になったのだろうか。
 

今の幸せを壊したくなくて、ブレイズに聞くことはできなかった。
 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

妹を選んで婚約破棄した婚約者は、平民になる現実を理解していなかったようです

藤原遊
恋愛
跡継ぎとして育てられた私には、将来を約束された婚約者がいた。 ――けれど彼は、私ではなく「妹」を選んだ。 妹は父の愛人の子。 身分も立場も分かったうえでの選択だと思っていたのに、 彼はどうやら、何も理解していなかったらしい。 婚約を破棄し、妹と結ばれた彼は、 当然のように貴族の立場を失い、平民として生きることになる。 一方で、妹は覚悟を決めて現実に向き合っていく。 だが彼だけが、最後まで「元に戻れる」と信じ続けていた。 これは、誰かが罰した物語ではない。 ただ、選んだ道の先にあった現実の話。 覚悟のなかった婚約者が、 自分の選択と向き合うまでを描いた、静かなざまぁ物語。

【完結】捨てたものに用なんかないでしょう?

風見ゆうみ
恋愛
血の繋がらない姉の代わりに嫁がされたリミアリアは、伯爵の爵位を持つ夫とは一度しか顔を合わせたことがない。 戦地に赴いている彼に代わって仕事をし、使用人や領民から信頼を得た頃、夫のエマオが愛人を連れて帰ってきた。 愛人はリミアリアの姉のフラワ。 フラワは昔から妹のリミアリアに嫌がらせをして楽しんでいた。 「俺にはフラワがいる。お前などいらん」 フラワに騙されたエマオは、リミアリアの話など一切聞かず、彼女を捨てフラワとの生活を始める。 捨てられる形となったリミアリアだが、こうなることは予想しており――。 ※他サイト様にも載せています。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

愛してしまって、ごめんなさい

oro
恋愛
「貴様とは白い結婚を貫く。必要が無い限り、私の前に姿を現すな。」 初夜に言われたその言葉を、私は忠実に守っていました。 けれど私は赦されない人間です。 最期に貴方の視界に写ってしまうなんて。 ※全9話。 毎朝7時に更新致します。

婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです

鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。 理由は―― 「王太子妃には華が必要だから」。 新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。 誰もが思った。 傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。 けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。 「戻りません」 彼女は怒らない。 争わない。 復讐もしない。 ただ――王家を支えるのをやめただけ。 流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。 さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。 強いざまあとは、叫ぶことではない。 自らの選択で、自らの立場を削らせること。 そして彼女は最後まで戻らない。 支えない。 奪わない。 ――選ばれなかったのではない。 彼女が、選ばなかったのだ。 これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。

王子様への置き手紙

あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯ 小説家になろうにも掲載しています。

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

処理中です...