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しおりを挟む彼が亡くなってからこの丘に来るのは3度目になる。
あの時一緒に見た美しい光景を一人で見るのは寂しい。
だけど、ここに誰かと一緒に来るのは違うだろうと感じ、一人で来る。
少し早めに着いたことで、まだ夕日は沈んでいない。
まだまだ時間がかかりそうだと思っていた時、少し離れたところから声がした。
「あ、ごめんなさい。大丈夫ですか?」
「あぁ、うん。気にしないで。」
「起き上がれますか?」
「多分……あぁ、無理みたいだな。手を貸してくれるか?」
「はい。」
「……ありがとう。もう大丈夫だ。」
「ぶつかってすいませんでした。怪我はありませんか?」
「気にしなくていい。待ち合わせなんじゃないのか?彼女が見てるぞ?」
「あ、本当だ。では失礼します。」
若い男は彼女の方に走っていった。
杖をついた男はこちらに来ずに道を戻ろうとしていた。
「ジェイ?」
ローリエは思わず声をかけた。聞こえてきた声がジェイに似ていたから。
クレソン元国王は亡くなった。つまり、ジェイは亡くなったとわかっているのに。
杖をついた男は帽子を目深にかぶっていたので顔はわからないが、ローリエの声に反応して止まった。
だが振り向かないその男の顔を見ようと、ローリエは男の前に行った。
「……ジェイ、よね?」
「……見つかったか。」
ローリエは混乱した。死んだはずの男が生きているのだから。
どこからともなく護衛らしき者が現れて、先ほどまでローリエが座っていた場所にジェイを連れて行った。
ローリエはその隣に座り、状況を把握しようとした。
「幽霊、ではないのよね?」
「ああ。死んだことにしたんだ。まぁ、実際、先は長くないかもしれないが。」
「どうしてそんなことに?」
「それは…………」
ジェイは複雑そうな顔をして話し始めた。
退位する少し前、体調が良くないが風邪だと思っていた。
だが数日後、半身が痺れ始め、歩くことや物を持つことが難しくなった。
原因は不明だった。
このままでは国王として何もすることができないとわかり、息子である王太子に譲位した。
自分ではろくに動くこともままならず、絶望した。
そして、ふとローリエとの約束をどうしようかと悩んだ。
誰かに連れて行ってもらうのか?
志半ばのような形で退位することになったというのに、堂々と会いに行くのか?
会って何を話す?会っても心配させるだけではないか?
会わないことを選び、妻のオリヴィエにローリエとの約束を話し、行けないことを手紙で伝えてほしいと頼んだ。
だがオリヴィエは呆れて、『死になさい』と言った。
そうしないと、ローリエはずっと心配し続けるから。
いつか現れるかもしれないと待ち合わせの場所に何度も足を運ぶかもしれないから。
会えない人を心配して不安に思い続けることはつらいことだから。
国民も同じく心配し続ける。
なので、いっそ死んだことにして第二の人生を別人として好きに生きればいい。
いつか、自分から彼女に会いに行くために、リハビリを頑張ればいい。
そう言われた。王妃ではなくなった自分も自由に生きるから、と。
こうして一部の者を除き、国民を騙してクレソン前国王は亡くなったことにされた。
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