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しおりを挟むローリエは、クレソン前国王が亡くなったことにされた理由を聞いて動揺した。
「そんな……まさか、私との約束のために亡くなったことにしただなんて。」
「いや、それはきっかけの一つで国民のためでもあるんだ。
父が病に倒れた時も何年もの間、国民は心配し続けてくれていた。励ましの手紙をくれたり、花を贈ってくれたり、薬草を届けてくれたり。
私も、どこに行っても父の具合はどうかと聞かれていた。だから、まだ若い国王になった息子を国民が支えてくれるように、死んだことにした方が国民が前に進めると思ったんだ。」
なるほど。そういう考え方もあるのね。
「さっき、帰ろうとしていたのは私に会うつもりがなかったのよね?なのにここに来たの?」
ローリエは、自分の話し方が気安すぎるとわかっていても驚きすぎて直らない。
もう王太子でも国王でもないならいいか?なんて心のどこかで思っていた。
「ローリエは、毎年ここに来ているだろう?
一昨年、来ているわけがないと思いながらも護衛に背負ってもらってここに来たんだ。後からローリエが来て驚いた。去年も来ていたから、今年も来るだろうと思った。今日は杖をついて自分で歩いて来た。先にローリエが来ていて、近くを通ると気づかれると思ったから帰ろうとしたら人にぶつかったんだ。」
一昨年と去年は先に来ていて、奥まったところからローリエを見ていたらしい。
今年はローリエが先にいたから奥に行けなかったということだ。
「どうして?2年前に今みたいに説明してくれたら会えていたのに、どうして会ってくれなかったの?」
「……思うように動けない姿を見せたくなかったんだ。それに、来てくれるとは思っていなかったから驚いて声がかけられなかったというのもあるけど。」
「去年は?」
「……まだ自力で歩けていなかったから。」
「今年は?」
「……先に来ていたから驚いたのと、立ち上がれなかった自分が無様だったから。」
「無様?どうして?リハビリを頑張ったから自力で歩いて来れたのでしょう?すごいことよ?
それに、私もそのうち足腰が弱って杖をついたり誰かに背負ってもらうかもしれないわ。立ち上がれなくてもさっきみたいに手を差し伸べてくれるわ。一人で頑張る必要はないと思うの。」
それから私たちは、お互いのことを報告し合うという約束を果たした。
27年前とは違い、何時間もその場所で。
帰り際、彼に聞かれた。
「ローリエはいつ領地に戻るんだ?」
「明日よ。」
「明日?……そうか。これでもうお別れなのか。」
「ジェイ?あなたの第二の人生は自由なのよね?いつでもハーブス家に遊びに来て?」
オリヴィエ様がくれた新たな人生はそれが許されるということでしょう?
「いいのか!?」
「ええ。王都よりも領地の方があなたの顔を知っている人はいないわ。自由を楽しまないと。」
彼は今まで見た中で、一番の笑顔を見せてくれた。
そんな彼がハーブス男爵家を訪れたのはローリエが領地に戻ったひと月後のこと。
しかも彼は、ハーブス家の屋敷に近い家を買い、移住してきたのだ。
ローリエは驚いたが、彼は『ジェイ』という名で新たな戸籍を得ている領民となっているため文句は言えない。
そんな彼とは、やがて近くの図書館にも一緒に通うようになった。
2人でお茶を飲んだり、散歩をしたり。孫に勉強を教えたり。夫の墓参りをしたり。
そして年に1度だけ王都に向かい、あの丘で夕日と星空を見て過ごす。
毎日、悔いのないように楽しんだ。いつ、明日が来なくても残された方が笑って送り出せるように。
初恋はジェイ、二度目の恋は夫ディル、三度目の恋は再びジェイ。
夫ディルが生きていたとしたら、夫婦でジェイと友人関係になっていたと思う。
だけど、独り身同士になった私たちは生きている今を大切にしたかった。
再婚はしなかったが、ジェイと寄り添って暮らした。
月日が経ち、年老いた2人が杖をついて仲良く散歩する姿が、ハーブス子爵領ではよく見られた。
ハーブス家は男爵から子爵に。
過去の呪縛から解放され、元の地位や名声が戻りつつあった。
私たちは出会ってはいけなかった恋とはもう思わない。最期に寄り添うことができたのだから。
<終わり>
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