出会ってはいけなかった恋

しゃーりん

文字の大きさ
17 / 17

17.

しおりを挟む
 
 
ローリエは、クレソン前国王が亡くなったことにされた理由を聞いて動揺した。


「そんな……まさか、私との約束のために亡くなったことにしただなんて。」

「いや、それはきっかけの一つで国民のためでもあるんだ。
父が病に倒れた時も何年もの間、国民は心配し続けてくれていた。励ましの手紙をくれたり、花を贈ってくれたり、薬草を届けてくれたり。
私も、どこに行っても父の具合はどうかと聞かれていた。だから、まだ若い国王になった息子を国民が支えてくれるように、死んだことにした方が国民が前に進めると思ったんだ。」

 
なるほど。そういう考え方もあるのね。


「さっき、帰ろうとしていたのは私に会うつもりがなかったのよね?なのにここに来たの?」


ローリエは、自分の話し方が気安すぎるとわかっていても驚きすぎて直らない。
もう王太子でも国王でもないならいいか?なんて心のどこかで思っていた。


「ローリエは、毎年ここに来ているだろう?
一昨年、来ているわけがないと思いながらも護衛に背負ってもらってここに来たんだ。後からローリエが来て驚いた。去年も来ていたから、今年も来るだろうと思った。今日は杖をついて自分で歩いて来た。先にローリエが来ていて、近くを通ると気づかれると思ったから帰ろうとしたら人にぶつかったんだ。」


一昨年と去年は先に来ていて、奥まったところからローリエを見ていたらしい。
今年はローリエが先にいたから奥に行けなかったということだ。


「どうして?2年前に今みたいに説明してくれたら会えていたのに、どうして会ってくれなかったの?」
 
「……思うように動けない姿を見せたくなかったんだ。それに、来てくれるとは思っていなかったから驚いて声がかけられなかったというのもあるけど。」

「去年は?」

「……まだ自力で歩けていなかったから。」

「今年は?」

「……先に来ていたから驚いたのと、立ち上がれなかった自分が無様だったから。」

「無様?どうして?リハビリを頑張ったから自力で歩いて来れたのでしょう?すごいことよ?
それに、私もそのうち足腰が弱って杖をついたり誰かに背負ってもらうかもしれないわ。立ち上がれなくてもさっきみたいに手を差し伸べてくれるわ。一人で頑張る必要はないと思うの。」


それから私たちは、お互いのことを報告し合うという約束を果たした。

27年前とは違い、何時間もその場所で。

帰り際、彼に聞かれた。


「ローリエはいつ領地に戻るんだ?」

「明日よ。」

「明日?……そうか。これでもうお別れなのか。」

「ジェイ?あなたの第二の人生は自由なのよね?いつでもハーブス家に遊びに来て?」


オリヴィエ様がくれた新たな人生はそれが許されるということでしょう?


「いいのか!?」

「ええ。王都よりも領地の方があなたの顔を知っている人はいないわ。自由を楽しまないと。」

 
彼は今まで見た中で、一番の笑顔を見せてくれた。




そんな彼がハーブス男爵家を訪れたのはローリエが領地に戻ったひと月後のこと。

しかも彼は、ハーブス家の屋敷に近い家を買い、移住してきたのだ。
 
ローリエは驚いたが、彼は『ジェイ』という名で新たな戸籍を得ている領民となっているため文句は言えない。


そんな彼とは、やがて近くの図書館にも一緒に通うようになった。

2人でお茶を飲んだり、散歩をしたり。孫に勉強を教えたり。夫の墓参りをしたり。
そして年に1度だけ王都に向かい、あの丘で夕日と星空を見て過ごす。

毎日、悔いのないように楽しんだ。いつ、明日が来なくても残された方が笑って送り出せるように。


初恋はジェイ、二度目の恋は夫ディル、三度目の恋は再びジェイ。

夫ディルが生きていたとしたら、夫婦でジェイと友人関係になっていたと思う。
だけど、独り身同士になった私たちは生きている今を大切にしたかった。
再婚はしなかったが、ジェイと寄り添って暮らした。



月日が経ち、年老いた2人が杖をついて仲良く散歩する姿が、ハーブス子爵領ではよく見られた。

ハーブス家は男爵から子爵に。

過去の呪縛から解放され、元の地位や名声が戻りつつあった。 

 
私たちは出会ってはいけなかった恋とはもう思わない。最期に寄り添うことができたのだから。


<終わり>


 
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

お飾り妻は天井裏から覗いています。

七辻ゆゆ
恋愛
サヘルはお飾りの妻で、夫とは式で顔を合わせたきり。 何もさせてもらえず、退屈な彼女の趣味は、天井裏から夫と愛人の様子を覗くこと。そのうち、彼らの小説を書いてみようと思い立って……?

届かない手紙

白藤結
恋愛
子爵令嬢のレイチェルはある日、ユリウスという少年と出会う。彼は伯爵令息で、その後二人は婚約をして親しくなるものの――。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開中。

ジルの身の丈

ひづき
恋愛
ジルは貴族の屋敷で働く下女だ。 身の程、相応、身の丈といった言葉を常に考えている真面目なジル。 ある日同僚が旦那様と不倫して、奥様が突然死。 同僚が後妻に収まった途端、突然解雇され、ジルは途方に暮れた。 そこに現れたのは亡くなった奥様の弟君で─── ※悩んだ末取り敢えず恋愛カテゴリに入れましたが、恋愛色は薄めです。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

蝋燭

悠十
恋愛
教会の鐘が鳴る。 それは、祝福の鐘だ。 今日、世界を救った勇者と、この国の姫が結婚したのだ。 カレンは幸せそうな二人を見て、悲し気に目を伏せた。 彼女は勇者の恋人だった。 あの日、勇者が記憶を失うまでは……

勘違い

ざっく
恋愛
貴族の学校で働くノエル。時々授業も受けつつ楽しく過ごしていた。 ある日、男性が話しかけてきて……。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

処理中です...